安倍元総理の“弔い合戦”は意外に苦境 「昭恵さんが目立つのは危険」

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 今後の岸田政権の行方を占う、4月23日実施の衆参五つの補欠選挙。安倍晋三元総理の死去に伴う衆院山口4区と、安倍氏の実弟・岸信夫前防衛相の引退に伴う山口2区の両補選は、保守王国たる山口では本来そろって「無風」のはずが、あにはからんや対照的な情勢となっている。

 まずは4区。安倍晋太郎、晋三と続いてきた地盤に安倍家直系の人物を立てられず、昭恵夫人が推す前下関市議の吉田真次氏(38)が出馬する。だが短期決戦の中、大票田の下関市でも知名度不足。頼みは安倍氏を支え続けた人々で、3月5日に市内の宴会場で開かれた「激励の集い」では、解散したはずの後援会の会長が「吉田さんを国政に送り出すのが安倍後援会の最後の役割」と言葉を絞り出した。岸田文雄総理が来るとあって会場の外にまで人が溢れたが、総理が帰ると会場を後にする人も多く、結束を誇示するにはほど遠かった。

吉田氏は不利との見方が

 そもそも吉田氏の立場が微妙だ。総理は「集い」の直前、吉田氏が居抜きで使っている元安倍事務所で故人の遺影に黙祷を捧げた。が、総理と吉田氏、安倍氏の遺影がそろう象徴的な場ながら非公開とされた。総理の「自信と誇りをもって公認した」という言葉にそぐわぬ塩対応ぶり。「集い」の出席者もこう訝(いぶか)る。

「総理は安倍さんが平成5年に38歳で衆院初当選したことに触れ、同い年の吉田君が令和5年の補選に挑む巡り合わせも強調したうえで“大切な政治の流れを山口でしっかり引き継いでいる”と持ち上げた。でも、肝心要の『安倍後継』というお墨付きを与えるような言葉は出なかった」

 現4区は補選を最後に消滅し、区割り改変で新3区に吸収される。今回、吉田氏が議席を得ても、現3区に君臨する岸田派幹部、かの林芳正外相との公認争いが待ち受ける。下関市はかつて中選挙区時代に林氏の父・義郎氏が勢力を張った地で、今も林家の影響が色濃く残る。2月の市議選でも林派が議席を増やした状況下、きたる公認争いで吉田氏は不利との見方が強い。「補選で圧倒的な票数を見せつける」(支援者)ことが至上命令だ。

 ただ、前回2021年衆院選で安倍氏が取ったのは8万448票。17年の10万4825票から2万4千票余りも減らした。小選挙区導入後に10万票を割ったのは実施初年の1996年(9万3459票)だけで、支援体制の高齢化、弱体化は否めない。今回も8万票が最低ラインとみられるが、ハードルは高い。

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