「昨夜、初めて会ったばかりなのに」 作家・木村紅美が語る北海道での忘れられない出会い

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17年経った今でも

 その夜は、帯広でライブを見たあと、Dさんたちも合流し明け方まで居酒屋にいた。だだっ広い国道を、大雪山を眺め歩き、こんどは彼女たちの男友だちの住むアパートへずうずうしく転がり込ませてもらった。全員で雑魚寝。目覚めたら、みんなで温泉へ。帰りの航空券を取っていた帯広空港まで送ってくれた。

 あれきり、あの北海道の人たちとは会っていないのに、いまでも、たまに「LIFE」を聴き返すと、まっさきによみがえるのは彼女たちの笑顔とやさしさ、美幌峠の空の青さだ。作家になって17年近く経ち、いまも、落ち込むことはしょっちゅうあるけれど、あの短い旅の幸福感は自分の支えでありつづけている。人間と風景、音楽の出会いの奇跡を思う。

木村紅美(きむら・くみ)
1976年生まれ。作家。2006年「風化する女」で文學界新人賞、2022年『あなたに安全な人』でBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。

デイリー新潮編集部

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