兵庫・コーンロウ問題で茂木健一郎氏は「クソみたいな教師」「恥を知れ」…筑波大教授が指摘する“問題の本質”とは

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独自性の尊重も重要

 多様性を認めず、相手を“ひとまとめ”にして攻撃するという具体例の一つに、「ルワンダの虐殺」が挙げられる。「ルワンダ紛争」(1990〜93年)で起きた民族虐殺だ。

 フツ族の政府関係者などが「ツチ族は我々を奴隷にしようとしている」と虚偽の主張を展開し、ツチ族やフツ族の穏健派など50万人から100万人が虐殺された。

 教育現場の多様性を無視し、教師や校則を極端に敵視する姿勢は、フツ族がツチ族の多様性を無視し、一方的に敵視した姿勢と通底していると言える。

 加えて、災害支援の現場では「地域の独自性を最大限に尊重する」という姿勢が求められるという。

 医師や看護師によるボランティアチームが被災地で医療支援を行おうとして、地域住民から「私たちは自分たちで助け合うから、あなたたちは必要ない」と拒否されたとしよう。ボランティアチームはどうすればいいのか?

 絶対に口にしてはならないことは、「あなたたちは医療の素人であり、自分たちは医療のプロだ。プロの言うことを聞きなさい」という“意向の完全無視”だという。

「校則の問題も同じことが言えます。ある学校の校則が、関係のない他人にとっては馬鹿馬鹿しく思えたり、問題だらけのルールに見えたりするかもしれません。とはいえ、その学校の伝統や実情に根ざした規則という可能性も充分にあるのです。安易な判断は慎まなければなりません」(同・太刀川氏)

ルールを作るのは人間だけ

 ネット上では「グローバリズムの時代に校則は無意味」とか、「校則は自由や個性を阻害する」という意見も目立つ。一見すると説得力があるように思えるが、実は注意が必要な言説だという。

「どんなに立派な言説でも、教育現場におけるリアルな実情に根ざしていないのであれば、単なる価値観の押し付けに過ぎません。校則を巡る議論は大いに行われるべきですが、あくまで現場がどうなっているのかを踏まえながら、冷静な議論を積み重ねていくことが求められています」(同・太刀川氏)

 校則に関する議論を巡っては、アメリカの認知科学者であるマイケル・トマセロの『ヒトはなぜ協力するのか』(橋彌和秀・訳、勁草書房)が非常に示唆に富むと太刀川氏は言う。

 本書でトマセロは「人とチンバンジーの違い」から規範=ルールが誕生した原点について論考した。

「トマセロによると、他者に共感を覚えるのは、人間だけでなくチンパンジーも日常的に行っているそうです。チンパンジーも『俺も大変だが、お前も大変だよな』と思うことができます。一方、『俺もお前も大変だから、こういうルールを作ろうよ』という発想ができるのは人間だけで、チンパンジーにはできないのです」(同・太刀川氏)

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