「推し活」「沼落ち」に「デジタルドラッグ」… 脳内麻薬依存症からの脱出法とは? 世界的権威二人が警告

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孤独が病気リスクを高めるという驚くべき発見

レンブケ 実際、依存が進んだ人もいましたし。

ハンセン 「グループに属する」というのは食べ物を手に入れるのと同じくらい脳にとって重要なのだ、とわたしは患者さんに強調しています。わたしたちが相手の表情や感情を読もうとするのは、グループから追い出されないようにするためです。

レンブケ それがスクリーン越しだとなかなか伝わらないですよね。

ハンセン 仮想空間メタバースやVR(バーチャルリアリティー)ですべてを現実と置き換えられると考える人もいるようですが、それは無理だとわたしは思います。

 もうひとつ大きかったのは、レンブケさんも書いていた「孤独」「孤立」の問題です。孤独な状態が続けば病気になるリスクが高まるというのは、この10年で最も驚くべき医学的発見と言ってよいと思います。ですが、コロナ禍はそういった状況も招きました。

レンブケ その点でわたしが強調したいのは、ドラッグ=高ドーパミン製品の過剰摂取は、孤立と無関心の悪循環に陥る危険を招くということですね。

 脳にとって本来、報酬であったはずの共感や愛着の代わりをスマホやゲーム、薬物が果たしてしまえば、他者とのつながりが不要になってしまう。でも脳は報酬が欲しい。さらに高ドーパミン製品への依存を深める――そういうサイクルができてしまうと、抜け出すのはなかなか難しい。こういった形で孤立を深めるケースがこのパンデミックでは見受けられましたね。

 ただし申し上げておきたいのは、依存というのは恥ずかしくはないということです。誰でもなりえますし、社会生活に支障を来すようであれば医師に相談するべきですが、このドーパミン過多の現代社会では、戦略的に自分をコントロールしていくことが肝要です。自分自身を生物学的な観点から見ること、自分に対して思いやりをもつことが大事ではないでしょうか。

うつ病患者は「壊れていない」

ハンセン 同感です。わたしも先日、うつ症状で初めて受診した60代の患者さんに伝えたのは、「人間を生物学的に見ることは許しにもなる」という話でした。

 どうして脳が自分にそう感じさせるのか、その仕組みを知ることは救いになりえます。例えば、人間は不安があることが「普通」です。ない人の方がおかしい。わたしたちの脳は、生き延びるためにそう進化してきたのですから。

レンブケ そうですね。そういうことです。

ハンセン 人間はその歴史の中で、ティーンエイジャーになるまでに半分が死んできました。こんなに長生きになったのは最近のことで、それまではほとんどが飢餓や殺人、旱魃(かんばつ)や感染症が死因でした。わたしたちはそんな事態に対応でき、生き延びてきた人たちの子孫です。人間がサバンナで暮らしていた頃に警戒すべき事柄を、今も脳が警戒するのはいわば自然ですよね。

レンブケ その患者さんにそう伝えたのですね。

ハンセン はい。もちろん、うつも不安も原因はさまざまですが、「自分はおかしい」「わたしは壊れてしまった」と自分を責めてしまう患者さんは多い。

 わたしがその患者さんに言ったのは「脳はあなたを守ろうとしているだけだ」ということです。「わたしは壊れていない!」と気付くことで、その患者さんはやっと抗うつ剤を受け入れてくれました。

レンブケ 「わたしは壊れていない」というのは非常に大事な考え方ですね。

 先ほども言ったように、これだけドーパミン依存を助長するものに溢れた今の社会では、誰でも依存症になりえます。『ドーパミン中毒』でも詳しく書きましたが、恥ずかしいと隠すのではなくて、むしろ「徹底的に正直であること」が、依存に限らず、負のサイクルを正に戻すためには重要だと思っているのですね。そうやって人との親密性、属する場所を作ることが癒やしにつながるのだと。

 そのためには社会構造をどうやって変えていくのか考えなくてはいけません。

精神をデジタルに送ろうとする人々

ハンセン 一方でフェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグなどはメタバースの開発に巨額の投資をし、社会構造をも変えかねませんが。

レンブケ VRにおける他者との交流は、ドラッグ摂取と同じだと思っています。脳の視覚野や聴覚野を刺激するデジタルドラッグです。わたしにはザッカーバーグが麻薬カルテルの麻薬王みたいに見えてきます(笑)。

ハンセン それはまた。

レンブケ 彼はドーパミン消費を促す方向にものごとを進めています。今後確実にうつ、不安、自殺が増えていくと思います。非常に悲観的な見方だというのは自分でも分かっていますが、物理的な身体から離れてデジタルの中で暮らしていけば、もう生きていたくないと感じる人が増えるのではないでしょうか。わたしの立場からはそう危惧せざるを得ません。

ハンセン 人間は今、身体から精神を切り離してデジタルに送ろうとしていますよね。確かに昔からさまざまな宗教が、身体的苦痛から魂を救うと称してきました。でも身体と精神が切り離せるのでしょうか。この両者は同じひとつのシステムとして働いているのに。

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