「推し活」「沼落ち」に「デジタルドラッグ」… 脳内麻薬依存症からの脱出法とは? 世界的権威二人が警告
二つのグループに分かれた依存症患者
ハンセン 今年、テレビ番組に出演するため初めて日本に行ったんですよ。日本はまだマスクをしている人が多くて驚きました。
レンブケ パンデミックの受け止め方は国によってさまざまですね。
ハンセン レンブケさんはこのパンデミックの前後ではどんな変化があったと思いますか?
レンブケ わたしが興味深かったのは、依存症の患者さんが二つのグループに分かれたように見えたことですね。ひとつは依存がますますひどくなった人たち。もうひとつは家から出なくなったことでトリガー(刺激)が減ったのか、依存がマシになったという人たち。
ハンセン なるほど。
レンブケ 家から出ず、車を使わなくなればドラッグのディーラーを訪ねたくなる衝動も減ります。そういう形で依存症がマシになった人たちが一定数、見受けられましたね。
ハンセン わたしも病院で診療を続けていますが、デジタル依存については進んだ人が増えたように感じました。レンブケさんは「スマホはインターネットにつながれた私たちに24時間、週7日、休みなしにデジタル方式でドーパミンを運んでくる現代の皮下注射針だ」と書いていますよね。
「人と対面で会いたい」という欲求に気付いた人々
レンブケ 確かに、デジタル依存は増えたように思います。ただその一方で、パンデミックが始まって1年後くらいからでしょうか。人と対面で会いたいという自分の欲求に気付いた人も多かったように思います。ある意味、デジタルのむなしさを悟ったというか。コロナの自粛期間が終わったあと、みんなが家から出てきて、あえて人と会い、そうやってドーパミンを得ている姿を見て、すごく素敵だと思いましたね。特に、オンラインで交流しがちな若い人たちが、人と現実でつながることのすばらしさを感じてくれたのはよかったと思います。
ハンセン 同感です。『ストレス脳』(新潮新書)でも紹介しましたが、「グループに属している」という感覚を得るためには、オンラインではなく「物理的接触」が必要だという説があるのですね。
レンブケ 脳内物質であるエンドルフィンの話ですね。
ハンセン そう、一緒に笑う、歌う、踊る、スポーツをするといったことでエンドルフィンが出るという実験結果で、そもそもエンドルフィンはチンパンジーやゴリラでは毛繕い(グルーミング)をする時に出るホルモンです。
レンブケ 相手への友情や親密さを感じて分泌される、多幸感の中心的な役割を果たす物質ですね。
ハンセン つまり、人間は文化活動によって「進化型のグルーミング」をしているのではないかというのがその説で、パンデミックによってこうした物理的接触が失われたことは、実は深刻な問題を引き起こしていたのかもしれません。
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