【舞いあがれ!最終回】最後に脚本家・桑原亮子さんのメッセージを紐解く

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回り道が有意義であることを説いた

 回り道は無駄ではないことを全編にわたって説いた物語でもあった。
 
 舞は序盤から回り道をした。8歳だった1994年の一時期、原因不明の発熱症を治すため、祖母でばんばこと才津祥子が住む長崎県五島列島で暮らした。家族や地元の東大阪市を離れ、淋しい思いもしたが、ばんばから数々のことを学んだ。浦一太(若林元太・28、幼少期は野原壱太・10)という一生の友人も得た。誰の目にも無駄ではなかった。

 2年で辞めた大学生活も回り道だが、やはり無駄にはなっていない。同じ夢を持つ「なにわバードマン」の仲間たちと青春の日々を過ごしたから、刈谷、玉本の電動垂直離着陸機の開発に携わることになった。

 東大阪の町工場が共催したオープンファクトリー(第101話)には1年先輩で母校の准教授になっていた渥美士郎(松尾鯉太郎・22)が協力してくれた。渥美は電動垂直離着陸陸機開発にも手を貸した。

 航空学校に入りながらパイロットにならなかったことも無駄ではない。学んだことは電動垂直離着陸機に生きた。また、ここでもスーパーマーケットチェーンの家に生まれた水島祐樹(佐野弘樹・29)ら気の置けない友人を得ている。

 大学で教授たちから多くを学んでない分、教官の大河内守(吉川晃司・57)から操縦以外のことも教わった。フェーイル(退学)になった水島に舞が同情していると、大河内はこう戒めた。

「パイロットになれなくても、彼の人生が終わったわけではない。大切なのは、彼がこれからどう生きるかだ」(大河内、第52話)

 舞もパイロットにならず、どう生きるかが問われた。そもそも、お父ちゃんの死後、パイロットになり、IWAKURAをお母ちゃん・めぐみ(永作博美・52)に任せ、人手に渡してしまったり、潰してしまったりしていたら、途方もなく後悔したはずだ。

「私は、お母ちゃん助けたい。工場がなくなるのも嫌や。今はそれしか考えられへん」(舞、第69話)

 理屈より情だ。たとえ選択ミスになろうが、大きな悔いが残る人生を送るよりいいだろう。

最短・最速コースでは見えない、分からないこと

 舞の夫となった貴司も歌人となるまでに回り道をした。サラリーマンとして挫折し、第32話で失踪するが、第81話で長山短歌賞を受賞。歌人として世に出た。苦悩の日々は創作に生きた。

 幼なじみで無二の友人・望月久留美(山下美月・23)は、優柔不断な医師・八神蓮太郎(中川大輔・24)との婚約、その解消という回り道を経て、悠人と結ばれた。お似合いに違いない。悠人は投資をマネーゲームと考える虚業家だったものの、お父ちゃんの死と金融商品取引法違反での有罪で目がさめ、有望企業に投資する実業家に変身した。やはり回り道は無駄ではない。

 この物語は回り道をした人がやたら目立った。IWAKURAに欠かせなかったOB・笠やんこと笠巻久之(古舘寛治・54)がよその工場を経て入社したのは34歳の時だった。わざわざ第95話で説明された。めぐみの後任社長となる結城章(葵揚・27)も一時期、ほかの工場に勤務した。

 近年、最短・最速コースを直進することが正しいという風潮があるが、そうだろうか。物語から透けて見えるのは桑原氏の半生である。本人が明かしたところによると、中学生の時、原因不明の感音性難聴と診断された。そのハンディをカバーできる仕事に就こうと、早稲田大時代には弁護士を目指した。

 しかし、難聴が悪化。ほとんど聴こえなくなる。進路変更を考え始めた時期、市井の人が書いた詩や童話が掲載された文芸雑誌と出会い、心惹かれる。自分も書きたいと思い始めた。

 ここからシナリオ学校に通った。弁護士を目指した時代は回り道だったが、無駄ではなかったはずだ。さまざまな人生を描く創作家にとっては特にそうだろう。最短・最速コースを進んでいると、見えないことや分からないことがあるに違いない。これも桑原氏のメッセージなのだろう。

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