冬ドラマ「ベスト3」 「ブラッシュアップライフ」で毎回、架空の“埼玉県北熊谷市”が登場した意義は

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

最初から最後まで“草なぎ劇場”

 終わってみると、第1話から最終回まで草なぎ劇場だった。今さらながら、演技力が突出している。

 例えば、妻の可南子(井川遥・46)から離婚届を突き付けられた時と、総理秘書官から配信動画での告発を止められた時は、どちらも怒っていたのだが、表情がまるで違った。

 自分の非が招いた離婚届の際は子供のように口を尖らせ、身勝手な怒りであることが即座に伝わった。告発を制止された際は般若のような形相になり、強い義憤であることが分かった。

 鷲津の心理状態と草なぎの内面が同化していたから、どんなシーンにも真実味があったのだろう。辛口で知られた故・つかこうへい氏が、草なぎの主演舞台「蒲田行進曲」(1999年)を演出した際、「あいつは天才」と絶賛したのもうなずける。

 岸部、高橋、犬飼孝介元代議士に扮した本田博太郎(72)らベテランも名演した。一方、鷲津の秘書・蛍原梨恵に扮した小野花梨(24)同じく蛯沢眞人を演じた杉野遥亮(27)ら若手もドラマに欠かせない存在だった。うまい人が集まっていた。

ベスト冬ドラ:「リバーサルオーケストラ」(日本テレビ)

 ヒロインは元天才ヴァイオリニストの谷岡初音(門脇麦・30)で、仲間のオーケストラの面々たちとの集団劇。設定は新しいのだが、どこか懐かしかった。

 フォーマットが往年の青春ドラマに近かったからだ。青春は年齢で定義するものではないというから、“大人たちによる青春ドラマ”があったっていいのだろう。

 初音が所属する児玉交響楽団(玉響)は“ポンコツ”だった。だが、結束力は強く、仲間のピンチは全員で乗り越える。個人技はイマイチかも知れないが、それをカバーできるチームワークがあった。

 往年の青春ドラマで描かれたダメなサッカー部、ラグビー部と同じだった。最終回(第10話)で日本一の楽団「高階フィルハーモニックオーケストラ」と対決するところも一緒。最後にエリートたちとプライドを賭けて戦うのは青春ドラマの美しき約束事である。

 第8話でマエストロ(指揮者)の常葉朝陽(田中圭・38)に「好きです」と打ち明けた後の初音はまるで女子中高生のようだった。朝陽と2人で一緒に帰れないと、床を蹴って拗ねたり、ソファで隣に座ると、なるべく体をすり寄せようとしたり。

 そんな初音に観る側が違和感を抱かなかったのも“大人たちによる青春ドラマ”だったからだろう。毎回、観る側を温かい気分にさせてくれた。後口の良さは冬ドラマで一番だったのではないか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。