冬ドラマ「ベスト3」 「ブラッシュアップライフ」で毎回、架空の“埼玉県北熊谷市”が登場した意義は
ベスト冬ドラ:日本テレビ「ブラッシュアップライフ」
冬ドラマは豊作だった。プライム帯(19~23時)の15作品には面白い作品が多かった。遊び心に満ちたタイムリープ作品から現実を切り取った政界モノまで、バラエティにも富んでいた。その中からベスト3を選んでみたい。
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まず「ブラッシュアップライフ」は、全体の構成が斬新だった。大半のタイムリープ作品は、主人公が過去や未来に行く目的を物語の前半で明かす。TBS「テセウスの船」(2020年)も映画『東京リベンジャーズ』シリーズ(2021年)もそうだった。だが、このドラマは違った。
第7話までは主人公の近藤麻美(安藤サクラ・37)が徳を積んで人間に生まれ変わろうと奮闘するコメディにしか見えなかった。それでも十分に面白かった。
麻美がタイムリープする真の目的が、幼なじみを救うためだと観る側が知るのは第8話。それまでは麻美自身すら分かっていなかった。このドラマは数々の伏線が敷かれていたが、最大の伏線は第7話までの全てだったと言っていい。
第6話までは麻美と幼なじみのなっちこと門倉夏希(夏帆・31)、みーぽんこと米川美穂(木南晴夏・37)との雑談や他愛もないエピソードが繰り返し描かれた。食事、カラオケ、ドライブ。観ていて愉快だったものの、この日常に特別な意味があるとは思えなかった。だが、実際には違った。
第7話の4周目人生で麻美は優等生の道を歩んだため、2人とは仲良くなれなかったが、代わりに同じく優等生の宇野真里(水川あさみ・39)と親しくなる。まりりんだ。麻美はまりりんと新たな日常を送る。これにも意味は見出せなかったものの、やはりワケがあった。
麻美にとって幼なじみは特別な存在であることを表しておく必要があったのだ。「10代はこの日が一番楽しかった」(第2話の麻美、みーぽんが免許を取ったので初ドライブした日)といった言葉からも分かる通り、麻美にとって幼なじみは人生と切り離せなかった。
5周目人生からシリアス色が強めに
麻美は2周目人生の第2話で、中学時代の社会科教師・三田哲夫(鈴木浩介・48)の痴漢冤罪を初めて防いだが、これもなっちたちに三田の映像を送ろうと電車内で盗撮していたため。麻美にとって幼なじみは身内同然だった。
それが観る側に知らされていたから、第8話での麻美の選択がすんなり腑に落ちた。麻美が念願の人間に生まれ変われる機会を捨て、なっち、みーぽん、まりりんを救うため、5周目人生を送る道を選んだ。
この時点から、作品はシリアス色が強くなった。麻美が大切な幼なじみの救出を成し遂げられるのかどうか、最終回(第10話)まで目が離せなくなった。鮮やかな構成だった。
演出が出色だったのも第8話にほかならない。なっち、みーぽん、まりりんの葬儀の後、麻美はふくちゃんこと福田俊介(染谷将太・30)、ごんちゃんこと丸山美佐(野呂佳代・39)と葬儀会場の寺から出てきた。外は雨。このドラマで唯一、雨の場面だった。残された側の悲しみを表していた。
ここで真ん中にいたごんちゃんが、「ちょっとさぁ、お茶して帰んない」と声を上げた。普段は目立たず、自己主張しないごんちゃんによる初の提案だった。同調した2人。みんな1人になりたくなかったのだ。短いシーンだったが、幼なじみを失った3人の淋しさと空虚感が伝わってきた。
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