コオロギ食騒動から1カ月 研究者は「“昆虫は代替たんぱく質“が誤解を生んだ」

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「代替たんぱく質」という誤解を生むメッセージ

 今回の炎上騒動では「政府がコオロギ食事業に6兆円の予算を投じている」というデマも拡散された。挑戦的な研究開発を推進する国の「ムーンショット型研究開発事業 」の中に「 農作物残渣(※残りかす)や食品ロス等を利用した昆虫の食料化と飼料化」に関する研究プロジェクトが含まれていることがデマを招いた一つの要因とみられる。鈴木氏は由良敬教授(お茶の水女子大学)がリーダーを務めるこのプロジェクトの研究メンバーのひとりでもある。

 鈴木氏が昆虫食の研究に取り組み始めたのは2018年頃だった。

「応用昆虫学の分野で学位を取ってから14年間、主に害虫防除に関する研究に従事してきました。昆虫の弱点を探るという害虫防除との共通点がある一方、その弱点をケアする昆虫養殖にも興味を抱き、さらに農作物残渣の活用など既存農業との連携に将来性を感じるようになりました。私はまだまだ新参者ですが、ここ数年は昆虫食が注目を集め、さまざまな研究が行われている勢いのある時代だと身をもって感じています。昆虫食という食文化自体は日本でも古くからあり、また、食用が目的ではないものの、生糸生産のための養蚕という昆虫養殖産業もかつては日本が牽引していました。このような背景のもと、ムーンショット事業の中の一つのプロジェクトとして、これまでは大きく産業化されてこなかった食分野における昆虫養殖の将来性、特に既存農業、畜産業および水産業との互恵的な連携に期待をかけ、研究者らも研究開発に取り組んでいます」

 国や企業との連携のもと、大学やベンチャー企業での昆虫食研究がますます勢いに乗る中で、一部の研究者からはかねてから“ある懸念”の声が上がっていた。それは、食用昆虫を牛や豚などの家畜と比較し、「代替たんぱく質」や「食料問題の解決策」として、その利点を強調することへの疑問である。

 例えば、無印良品の「コオロギが地球を救う? 」と題するページでは、世界人口が100億人になると予想される2050年には、たんぱく質の供給が足りなくなるとグラフを使って紹介され、《家畜の代替えとしての昆虫食が注目され始めています》と明記されている。Pasco(敷島製パン)のコオロギパンに関するページでも、ほとんど同じ内容が記されている。さらに、ムーンショット事業のページでも食料危機について紹介している。

「食料危機の問題と一緒に提示されることで、昆虫食を強制されているようなメッセージを感じてしまう方もいると思います。当然ですが、食べたい人が食べればいいものであって、抵抗や不安を感じる人が昆虫食をする必要はありません。また、昆虫食の利用によってたんぱく質の供給が増えても、食料問題を直接解決できるわけではありません。食料問題の根本的な原因は、発展途上国における貧困、特に小規模農家における待遇改善の遅れです。この点に言及せず、食料問題と昆虫食を安易に結びつけることは正しくはありません。こういった指摘はムーンショット事業のメンバー内でもありましたし、私自身も違和感を覚えていましたが、サイエンスコミュニケーションにおける方針の修正が見過ごされてきてしまいました」

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