ステージBと診断された61歳「前立腺がん患者」の告白 屈辱的な激痛の針生検、医師の言葉に有頂天になったことを後悔

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尊厳を奪われた針生検

 MRI検査を受けたが、はっきりとした結果は出なかった。泌尿器科医は「MRIのデータだけでは正確な判断が難しい。大学病院で日帰りの“針生検”を受けてほしい」と言う。

「5月に大学病院で針生検を受けました。結論から先に言うと、人間としての尊厳を傷つけられたような気持ちになりました。薄暗い個室で下半身裸になり、赤ちゃんがおむつを替えるポーズを取らされます。一応は仕切りのカーテンがあるので、医者や看護師の顔は見えません。それでも非常に恥ずかしい。そして超音波用のプローブという太い棒状の器具を肛門に挿入されました」

 医師はプローブを使い、前立腺に針を打って細胞を採取する。「はい、力を抜いて、息をふーっと吐いて」と言うが、針を打つたびに「パチン」という音が響き、男性の肛門に激痛が走った。

「正確に言うと、針を刺されても痛みは感じません。プローブが動くと痛いのです。苦痛に悲鳴を上げ、たちまち全身から脂汗が流れました。医者が『順調に進んでいますよ』と声をかけてくれたので、『あとどのくらいですか?』と質問すると、『ちょうど半分です』と言うのです。まだ激痛が続くのかと思い、失神しそうになりました。結局、全部で約20カ所に針を打たれたようです。生検後はガニ股でよろよろ歩きながら帰宅しました」

現実逃避の日々

 針生検から10日後、大学病院で結果の説明が行われた。担当医は家族同伴を勧めたが、男性は埼玉県内で一人暮らし。妻とは別居中で、一人息子も結婚して独立した。ちなみに息子には子供が二人いる。つまり男性は孫が二人いるわけだ。

「独り者の悲哀を感じながら大学病院を訪れました。最悪の結果も頭をよぎりましたが、結果は『がんではない』との診断でした。担当医から『依然としてPSAの数値は高いので、半年後に泌尿器科を受診してください』と指示されましたが、私は耳を傾けませんでした。胸のモヤモヤが一気に消え去り、晴れ晴れとした爽快感を味わっていたからです」

 だが、この時に有頂天になってしまったことを、男性は後に後悔することになる。担当医は「今回、がんは見つかりませんでした」と説明したに過ぎなかったが、男性は「がんではなかった」と誤解していたのだ。

 半年後の11月、泌尿器科で検査を受けた。PSAは8・37。相変わらず上昇傾向は続いていた。泌尿器科医は3カ月後に再検査を受けるように言ったが、男性は「針生検でがんは見つからなかった」と翌年2月の検査をサボってしまう。

「検査をサボってから、ネットに没頭するようになりました。仕事を終えて帰宅すると検索を繰り返し、『PSAの値が高くても前立腺がんではない』、『アメリカではPSAの数値は無意味と言われている』、『PSAを下げる食品一覧』、『前立腺がんは手術すべきではない』といった記事を見つけては熟読しました。検索エンジンに『ぜ』と入力しただけで『前立腺がん』と予測変換されるようになったほどです。一種の現実逃避だったのでしょう」

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