波乱のセンバツ、強豪「履正社」がまさかの初戦敗退…そこに見えた“わずかな綻び”と“希望”

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“記録に残らないミス”

 エラーは、この回の坂根の悪送球だけだったが、“記録に残らないミス”は、他にもあった。2対1、履正社のリードで迎えた8回裏。高知は、代打・井上聡太がライト前ヒットを放ち、ようやくチーム初安打が飛び出すと、送りバントと連続四球などでツーアウト満塁と、履正社を一気に攻め立てた。

 この場面で、履正社は、逆転となる二塁ランナーを生還させないように警戒するべきであった。だが、セカンドとショートは定位置からなぜか動かず、二塁ランナーに悠々と大きなリードを許していた。センターに抜ける打球を防ぐためにも、二遊間のポジショニング狭くする必要があるが、それも怠り、二遊間を大きく開けてヒットゾーンを広げていた。

 続く、高知の3番、高塚涼丞がセンター前に放った打球は、詰まりながらも、大きく空いたセンター前に抜けていく。三塁ランナーがまず生還、続く二塁ランナーもホームを狙う。打球を処理したセンターの西稜太は、出足が悪かったうえ、ボールを握り直してしまい、ホームへの返球が遅れた。この間に、逆転のランナーがホームベースに滑り込んだ。

 このあたりは、履正社の守備に対する“意識の低さ”が露見したと言わざるを得ない。同点までは仕方ないにせよ、2点目は防げた失点だった。多田監督も、試合後に「守備に関しては、夏に向けての課題です」と、悔しそうに振り返っている。

“好材料”は選手個人のレベルアップ

 一方、履正社のポジティブな材料も挙げてみたい。走塁に対する意識の高さが、これまでのチームとは異なっていた。筆者は、打者が打ってから各塁に到達するタイムを計測しており、一塁までの“全力疾走”の目安は「4.30秒未満」としている。履正社は、スタメン9人のうち7人が目安となる数字をクリアした。

 7人は、この日までに選抜に出場したチームのなかで、最も多い。凡打となったフライでも、一塁を回ってから足を緩めることがなく、シングルヒットでも、相手の守備にミスが出れば、次の塁を狙う姿勢を見せた。こうした積極的な走塁は、以前の履正社では見られなかったことだ。

 もうひとつの“好材料”は、昨年の秋から個々人の選手がレベルアップしていたこと。福田は、昨年秋の公式戦でわずか3試合、7回しか投げておらず、チームで3番手の投手に甘んじていた。しかし、冬の間に大きく成長。今大会で登場した左腕では、最も速い145キロをマークした。福田は、試合後に悔しさをにじませつつ、「ストレートの強さについては自信がつきました」と語っていた。

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