「無期懲役では反省しない」死刑判決を受けた当事者の肉声 世界を取材をしてたどり着いた「死刑制度を残すべき理由」

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「日本の民主主義のためにも」

 昨年10月14日付の仏紙ルモンドは、同年1月からの10カ月間で、職務質問を拒否した市民12人が警察官に射殺されていると報じた。また、同国ラジオ局「フランスアンフォ」は、今年の1月22日にも、パリで1人の男性が警察官に銃殺されたと伝えている。

 このような状況を踏まえ、前回(2022年)の大統領選挙に出馬した野党のジャン=リュック・メランションは、昨年6月4日、ツイッター上で、ついに「死刑」という言葉を使った。

〈またも、受け入れ難い公権力乱用。職務質問拒否による死刑〉

 フランスは、ミッテラン政権時代の1981年10月、死刑を廃止している。最後にギロチン(断頭刑)が行われたのは、その4年前だった。当時、司法大臣だったロベール・バダンテール(94歳)が盟友のミッテランに働きかけ、死刑廃止を実現した。

 2021年2月、私は、パリ市内にある彼の法律事務所を訪ねている。バダンテールは、日本がなおも死刑を維持している現状を知り、肩を落とした。

「日本国民にはとても恥ずかしいこと。日本の民主主義のためにも、将来のためにも、非常に残念でならない。私は、世界中の進歩を目にしている。日本という偉大な民主主義国家で、なおも死刑があることは悲しい話だ」

死刑復活を望む世論

 しかし、今となってはその言葉にはあまり説得力を感じていない。現場射殺以外にも、フランスでは、多くの市民が事件に巻き込まれている。同国内務省によると、2012年以降、国内のテロ事件で271人の命が奪われ、約1200人が負傷しているという。大多数がホームグロウン(自国育ち)テロリストによる惨事で、死刑制度以前に人命を軽んじた行為であるとしか思えない。

 仏世論調査会社「イプソス」の調べでは、「死刑の復活は必要か」との問いに対し、「賛成」と答えているフランス人は2020年に55%、2021年に50%だった。半数以上が死刑復活を望んでいるのだ。

 欧米が求める「自由」や「平等」といった普遍的価値観の裏には、制御できない問題が隠れている。自由を与えすぎると、社会の秩序が混乱することを、私は欧米生活で学んできた。

 なぜ彼らは、銃をためらいなく使用したり、脱獄したり、街中で白昼堂々と強盗したりするのか。それは日本人とは異なる「個の生き方」にしがみついているからだ。個人主義社会での生活には、危険が頻繁に伴う。欧米で警官による射殺事件が相次ぐのは、そのためだろう。

 そんな中、世界的にも治安が良く、殺人事件の数も極めて少ない日本に対し、先進諸国は繰り返し死刑廃止を強要してくる。死刑があっても安全な国と、死刑がなくても治安の悪い国のどちらが健全かといえば、間違いなく前者ではないか。

 では、死刑は何のためにあるのか……。冒頭の疑問に対する私なりの答えが、今回の取材を終え、見えてきた。

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