「無期懲役では反省しない」死刑判決を受けた当事者の肉声 世界を取材をしてたどり着いた「死刑制度を残すべき理由」
「甘えてんじゃねえぞ」
礒飛の死刑を確信していた有紀は、無期懲役という結末にがくぜんとした。
「死刑になるのが当然だと思います。夫が死んだのに、なぜ犯人が生きているんですか。生きて償ってもらわなくていいです」
有紀は、人を殺した数よりも、礒飛が覚醒剤に溺れ、出所後に自暴自棄で刺し続けた残忍行為に照らして、判決に納得できなかった。彼女は証人として出廷した公判で、「死刑廃止論を持つ弁護人が、この裁判を利用していることにも腹が立つ」と苦言を呈した。
被害者遺族からすると、死刑は残酷などと考える余裕はない。彼女が望むのは、犯人がこの世から消えることのみだった。
「私が死刑執行のボタンを押すので、死んでもらいたい。甘えてんじゃねぇぞ。死にたかったら、てめぇで死ね、という思いです」
殺害された佐々木トシの長男・丹政樹(52歳)も、有紀と同じように礒飛の死刑を望んでいた。北海道の地で暮らす丹は、電話越しでこう明かした。
「(控訴審で)また死刑判決になったら上告するのかと聞くと、『それはちょっと……。上告します』と言った。自分が死にたくて2人も殺しておいて、生きたいなんて勝手だと思いましたよ。無期懲役で、いずれ出てくる可能性もある。あいつは反省しないでしょうね」
私欲で再犯に手を染め、無辜の市民を惨殺し、改悛の様子も見られない礒飛。無期懲役が彼のために良かったのか、私のなかに問いが生まれた。
国連の理事会による死刑廃止の勧告
今年1月14日、広島拘置所で女性死刑囚の上田美由紀が事故死を遂げた。これにより、現在、日本にいる死刑囚の数は105人。諸外国の実態はどうなのか。
米国では、昨年4月の時点で合計2414人(死刑情報センター調べ)の死刑囚を数え、日本の約20倍にあたる。
ただ、690人の死刑囚を抱えるカリフォルニア州のほか、ペンシルベニア州やオレゴン州などのように、過去5年間で処刑を行っていない州もある。また23州は、すでに死刑を廃止しており、この流れは今後も続く可能性が高い。
欧州の場合、ベラルーシを除き、死刑を廃止している。欧州連合(EU)では、廃止が加盟条件でもあるからだ。韓国では、1997年以降、死刑執行はない状態だ。要するに、先進的な民主主義国家において、もはや死刑はほぼ存在しないと言っていい。
日本は、刑法9条で「死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする」と定めており、絞首刑が違憲でないことも、最高裁判例で示されている。
ただ、世界的に死刑の廃止、または事実上の廃止を決めている国が144カ国ある中で、人権擁護派や日本弁護士連合会(日弁連)等は、「世界の潮流」であることなどを理由に、日本も廃止するよう求めている。
国連の人権理事会は日本の人権状況について6年ぶりの審査を行い、死刑廃止を勧告する報告書を今年2月3日、採択した。特に、フランスやドイツが廃止を求めており、日本政府は勧告を受け入れるかどうか、6月までに見解を示す方針だという。
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