徴用工問題で進展も、「ちゃぶ台返しに遭う恐れが」 なぜ日本側は譲歩した?

国際 韓国・北朝鮮

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「一般の国民が反対しているという印象は受けない」

 元駐韓大使で外交評論家の武藤正敏氏が言う。

「日本企業に賠償を求めないという案は、韓国の国内で批判を浴びる可能性がありました。そうした中で今回の決断を下したことは評価に値すると思います。麻生太郎自民党副総裁が昨年11月、韓国で尹大統領と会った際には“たとえ支持率が10%に落ちても韓日関係の改善をやる”と伝えられたと聞いています」

 解決策の公表後に実施された世論調査では、政権の支持率は38.9%。下落幅は4ポイントにとどまった。

 武藤氏が続ける。

「週末にはソウル市内で反対派の集会が開かれ、韓国内で『解決策』に絞って是非を問うと反対の声が6割を占めます。ただ、表向きの態度と本意は別物。支持率の推移を見ても明らかなように、今のところ一般の国民が強く反対しているという印象は受けません」

 麗澤大学客員教授の西岡力氏は、日本政府の対応に一定の評価を与える。

「韓国側は日本側に新たな謝罪を求めていましたが、岸田首相は“謝罪”という言葉は使わず、単に“歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる”と表明した。そこはよかったと思います。その歴史認識の中には、菅義偉政権で閣議決定された“戦時労働は強制連行・強制労働ではない”という見解も含まれているからです」

致命的な欠陥も

 しかし、解決策も完全ではない。例えば先の外信部デスクはこう指摘する。

「韓国側が日本に債務の支払いを求める求償権の放棄が解決策には盛り込まれていません。つまり、将来的に日本企業が再び賠償を求められる可能性がある。これは致命的欠陥です」

 他ならぬ岸田総理自身、煮え湯を飲まされた苦い経験をもつ。15年12月、安倍政権の外相として、当時の朴槿恵政権との共同声明で〈日韓間の慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する〉と発表したにもかかわらず、続く文政権により合意を一方的に破棄されたのだ。

 そんな経緯もあって、総理はかねて周囲に、

「前の(文)政権とは世界中の首脳が意思疎通できなかった。唯一の話し相手は北朝鮮の金正恩総書記くらいだったんじゃないか」

 などと零(こぼ)しつつ、

「尹大統領とはまともに話ができる。徴用工らが日本企業に賠償を求めないと確認さえできれば、話し合いに応じていい」

 と、期待感を口にしていたという。

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