【松戸ベトナム女児殺害事件から6年】巨額の借金、経営する飲食店は移転へ…リンちゃんの父親が語る“苦境”

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リンちゃんには「ごめんなさい」

 帽子を被ったリンちゃんが、上目使いに微笑んでいる。

 ハオさん宅の祭壇に飾られたリンちゃんの遺影だ。一家で東京タワーに行った時に撮影した写真で、リンちゃんが4歳の頃だった。

 その遺影の前に、白い大きな紙袋が2つ、並んでいた。1つには、事件発生時にリンちゃんが背負っていたランドセル、もう1つには、その時に着ていた衣類が入っている。今年1月、我孫子署から返却されたと、ハオさんが沈痛な面持ちで語る。

「事件の捜査が終了したので、返しますと。受け取ってから、我孫子の現場に行き、お線香をあげました。今も袋の中は見れません。心痛いです」

 現場には今も、ハオさんがこしらえた祠が建ち、月に一度は通っている。

 ハオさんがちょうど2年前にオープンした松戸市内のベトナム料理店は現在、福島県の旅館に移転する準備を進めている。「ベトナムと日本の架け橋になりたい」というリンちゃんの思いを実現するために始まった松戸市の店は、新型コロナの影響で経営不振に。手元には数百万円の借金が残った。

 ハオさんは現在、日本とベトナムを行き来する日々だ。リンちゃんの下の弟、トゥー君(9)の面倒をみながら、リンちゃんと同じ小学校に通わせている。温泉旅館の準備で福島に滞在する時は、知人のベトナム人にトゥー君を預ける。

 妻のグエンさん(36)と、その下の子供2人はベトナムに帰省中で、特にグエンさんの調子が芳しくないため、日本で一家5人が一緒に生活できるかは微妙な状況だ。それでもハオさんは、澁谷のマンション競売を実現させるため、何としても日本に留まり続ける覚悟でいる。

「リンちゃんにはごめんなさいしかないね。澁谷に対して(納得できる)刑罰が下されず、申し訳ない」

 そう語るハオさんの目からどっと涙が溢れた。

 あれから6年――。

 命日の3月24日、ハオさんは今年も我孫子の現場で祈りを捧げる。

 祠の隣に立つ、リンちゃんが大好きな桜の木も、咲き誇っているだろう。

水谷竹秀(みずたにたけひで)
ノンフィクション・ライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、『日本を捨てた男たち』で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。10年超のフィリピン滞在歴をもとに「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材。昨年5月上旬までウクライナに滞在していた。

デイリー新潮編集部

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