【松戸ベトナム女児殺害事件から6年】巨額の借金、経営する飲食店は移転へ…リンちゃんの父親が語る“苦境”

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「福島の人は自分と似ている」

 これでは一体、何のための賠償判決なのか。

 殺人事件の被害者遺族が、犯人に損害賠償を請求した民事訴訟で勝訴し、「犯人に支払い能力がない」などの理由から、賠償金が支払われないケースは枚挙にいとまがない。ところが、犯人に不動産などの財産がある場合は、それを差し押さえ、競売にかけて賠償金の代わりにすることが可能だ。澁谷は松戸市内に4階建てのマンションを所有していた。

 その競売手続きに、ハオさんは着手した。だが、マンションの評価額が低かったため、競売開始のために保証金約4000万円を納付するよう千葉地裁松戸支部から言い渡された。

 ハオさんは、ベトナムにある自宅や親族宅を担保に銀行から日本円にして約3000万円相当を借金した。残り1000万円については調達が難航したが、その過程で温泉旅館への投資を思いついた。

「東日本大震災の記事を見て、今も福島に帰れない人がいると知りました。観光地の旅館やお店を閉店する人もいて、とても不公平に感じました。自分のことに似ていると。私も別に悪いことしていないのに、家族が残忍な目に遭った。福島の人と同じ気持ちになり、何かしたいと思いました」

 ベトナムの旅行会社の多くは、福島県北塩原村にある観光地、五色沼を日本の観光ツアーに組み込んでいた。その近隣にある、閉館した温泉旅館を再開し、ベトナム人観光客を呼び込めないだろうか。そうハオさんは考えた。

「ベトナムには温泉がほとんどありません。日本を旅行するベトナム人に温泉の素晴らしさを紹介したいと思いました」

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