路線バス事業者の7割は赤字で、日本からバスは消える? 高齢化で意義が見直される可能性も(古市憲寿)

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 青春ソングの歌詞には時折「バス」が出てくる。

 青春真っただ中の18歳未満は、大人と違って自分で車の運転ができない。日常的に新幹線や飛行機に乗る中高生はまずいない。そんな彼らが主人公の歌では、路線バスが舞台装置になりやすいのだろう。

 ゆずの「サヨナラバス」が「サヨナラボーイング」だと飛行機の退役ソングになりかねないし、松任谷由実の「Good-bye Goes by」も「走りだしたバス」に飛び乗るからいい。バスの車窓はおよそ地上2.3メートル。ほんの少しだけ上から目線で街を眺めることができる。

 少し年齢は上がるが、長距離バスや夜行バスにも青春の趣がある。大ヒット中の映画「BLUE GIANT」では、高校を卒業した主人公が、仙台から東京までバスで向かう。

 仕事で出張の大人なら1時間半で移動できる新幹線に乗るだろうが、お金のない若者なら約6時間かかってもバスがいい。安い時期は3千円以下で乗ることができる。上京する若者の描写としても、新幹線のグランクラスよりも長距離バスがいい。

 だが国土交通省の調べによれば、乗り合いバスの輸送人員は長期的に減少傾向にある。ピークの1968年度にはのべ101.4億人もの輸送人員を誇っていた。だが自家用車の普及と鉄道網の発達で利用者は減少、2020年度は感染症の影響もあり31億人だった。

 さらに路線バス事業者の約7割は赤字で、補助金や他事業の利益による補填で何とか事業を維持している状態だ。都営バスなど都市を走るバスでさえ、赤字路線の方が圧倒的に多い。地方では運転手不足も深刻で、路線の廃止も相次いでいる。

 このまま日本からバスは消えてしまうのだろうか。恐らく答えはNO。何ならバスが見直される機会も増えていくだろう。

 一つ目の理由は高齢化。高齢ドライバーの事故が相次ぐ中で、自家用車の代わりとなる交通手段が求められている。今年の4月からは、限定地域内で遠隔監視があればという条件つきだが、運転手が乗車しなくてもいい自動運転バスが解禁される。国のロードマップによれば、2025年ごろまでに40カ所以上で展開することを目指しているという。

 もう一つは、都心部における交通手段の見直し。欧州各国が、都市への自家用車の乗り入れ禁止を模索している。CO2削減や大気汚染軽減のために、公共交通機関や緊急車両以外は都心に入ってくるなというのだ。その際には、自転車と共に路線バスが人々の足として活躍することになる。

 自動運転のネックは、機械と人間の運転する車が混在すること。予期せぬ動きをする人間運転手を排除した方が、車の完全自動化も進めやすい。

 近未来の日本でも、歌詞にバスが登場する歌は生まれるだろう。ただしそれはもはや青春ソングではない。「リタイアして郷里に戻ったら初恋の人に無人バスの中で再会した」といった、高齢者が主人公の歌なのだろう。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

週刊新潮 2023年3月23日号掲載

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