イラク戦争から20年 CIAの美人スパイ「ヴァレリー・プレイム」はプロになぜ評価されているのか【元公安警察官の証言】

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トップクラスのスパイ

「彼女は頭脳明晰で身体能力が高く、組織に対する忠誠心もかなり高かったと聞いています。間違いなくトップクラスのスパイと言えます」

 ヴァレリーの夫は、イラク大使代理やガボン大使を務めたジョゼフ・ウィルソンという外交官だった。

「彼は2002年、たまたま大使としてニジェールに派遣されますが、そこでイラクの大量破壊兵器説はでたらめだったことを確信するのです」

 ところが、当時のブッシュ政権はヴァレリーやジョゼフの報告を無視し、イラクに大量破壊兵器があるという大義名分のもと、2003年3月19日(日本時間20日)、イラクへ宣戦布告した。周知のように、開戦後、米軍はイラクで大量破壊兵器を発見することができなかった。

「そのためジョゼフは同年7月6日付のニューヨーク・タイムズ紙にイラクの核開発は誤った情報であると寄稿したのです。これに報復するように、アメリカ政府は保守系のコラムニストにジョゼフの妻はCIAのエージェントであることを暴露させるのです」

 アメリカでは「情報部員身分保護法」によって、CIAエージェントであることを暴露することは禁じられている。

「CIAの身分を暴露すれば有罪になってしまいます。当時、ブッシュ大統領が直接関与したと言われていましたが、結局、コラムニストにヴァレリーの情報を流したのは、ディック・チェイニー副大統領のルイス・リビー首席補佐官ということになり、起訴されました」

 リビーには2007年6月、禁錮2年6カ月の実刑判決が出たが、恩赦を求める声が多かったので、ブッシュ大統領は執行猶予に減刑したという。

 CIAの工作員であることを暴露されたヴァレリーは仕事ができなくなり、2006年、CIAを去った。2007年10月、彼女は回顧録『Fair Game』を出版。それを基にアメリカ映画「フェア・ゲーム」が2010年に公開された。

「ヴァレリーは2017年、ジョゼフと離婚しています。彼女にはジョゼフとの間に双子の子どもがいますが、現在子どもたちとニューメキシコで暮らしているそうです」

勝丸円覚
1990年代半ばに警視庁に入庁。2000年代初めに公安に配属されてから公安・外事畑を歩む。数年間外国の日本大使館にも勤務した経験を持ち数年前に退職。現在はセキュリティコンサルタントとして国内外で活躍中。「元公安警察 勝丸事務所のHP」https://katsumaru-office.tokyo/

デイリー新潮編集部

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