リスキリングで「中高年の再戦力化」を図れ――後藤宗明(ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事)【佐藤優の頂上対決】

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大失業時代対策として

佐藤 インテリジェンスの世界にはリスキリング的な要素が最初から組み込まれています。偽装するのに必要だからです。例えば、ジャーナリストに偽装するなら、記事が書けなくてはならない。

後藤 ちゃんと専門職に見えるようにするのですね。

佐藤 記事が書けないと、何者だ?ということになります。実際はジャーナリストより学者に偽装する方が多い。ジャーナリストは取材に行くと、それをすぐ書かなくてはならないでしょう。しかも記事にならないような題材で何回も行くと変に思われる。その点、学者は、「いま大論文を書いている」と言っておけばいい。

後藤 確かにそうですね。

佐藤 偽装には予算がいくらでもつきますから、だいたい二つくらいはスキルを身に付けさせてくれます。これには情報を取る以外にもう一つ理由があって、情報の仕事は一定の割合で事故が起きるんですね。私もそうでしたが、そうなるとインテリジェント・オフィサーとして使えなくなる。その時、諜報の技術しかないと生活が成り立たず、組織に恨みをぶつけることになります。

後藤 なるほど、保険というか、セカンドプランになるわけですね。

佐藤 だから組織が行うのと、必死に技術を身に付けるという点では共通しています。

後藤 これはリスキリングに関する、もっともスケールの大きな話ですね。

佐藤 現在、世界各地で広がっているリスキリングは、どこに原点があるのでしょうか。

後藤 2013年に英国オックスフォード大学のマイケル・オズボーン教授らが「雇用の未来」という論文を出すんですね。ここに「今後10年から20年の間に米国の総雇用者の約47%の仕事が自動化され消失するリスクが高い」という衝撃的な内容が書かれていたんです。

佐藤 つまりデジタル化で大量の失業者が出る、という話ですね。

後藤 はい。それまでにも工場がオートメーション化されて、労働者が失業するということはありました。それも社会問題にはなりましたが、ブルーカラーの仕事が中心だったため、経営者をはじめとしたホワイトカラーの業務には、さほどインパクトはありませんでした。でもその論文はホワイトカラーの仕事がどんどん自動化されていくという内容だったんですね。だから大きな衝撃が走った。

佐藤 そこがデジタル化の本質部分です。

後藤 その頃、私は日米を行き来していましたが、同時期に「技術的失業」という言葉も登場して、すごく話題になったんですね。そこでその解決策として、リスキリングによって消えていく仕事から成長事業に労働移動させるという議論が出てきた。そしてアメリカ最大の電話会社だったAT&Tが2013年から社内でリスキリングを始めるんです。

佐藤 それをすぐ実装するのは、実にアメリカ的ですね。

後藤 AT&Tは2007年にiPhoneが出た時、自分たちはディスラプション(破壊)の危機にあると認識したんですね。これまで扱ってきた電話というハードウェアをアップデートしていく仕事はなくなり、今後はソフトウェアの仕事に移らないと生き残れないと考えた。従業員25万人のうち10万人の仕事がこの10年でなくなると試算し、全社を挙げてリスキリングに取り組むことを発表したんです。

佐藤 成功したのですか。

後藤 2016年くらいにその成果が発表され、リスキリングでちゃんと労働移動ができることがわかった。それでリスキリングが急激に広まったんです。これによってAT&Tは事業の性格が随分変わりました。いま中心となっているのは動画の配信事業です。日本ではNTTドコモがスポーツ中継のDAZNと提携し配信をしていますが、そうしたことを自社開発でどんどん進めている。

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