「罠の戦争」はいよいよ最終章へ 鷲津了を裏切った事務所の人間は誰なのか
“正義の人”ではなかった鷲津
この作品は政界が舞台だが、普遍性のある人間ドラマになっているから面白い。鶴巻や虻川と似たタイプの人間は世間にもいる。同じような確執や憎悪も存在する。また、鷲津がありきたりのヒーローに収まらず、迷走するのもいい。鷲津が最後まで優等生だったら、平凡な作品になっていたはずだ。
鷲津の正義にほころびが生じたのは総選挙出馬の時。鷲津が失脚させた犬飼の地盤を受け継ぎ、立候補した。第5話だった。1人息子・泰生(白鳥晴都・15)が歩道橋から突き落とされた事件の全容を知り、犯人に復讐するためには力を持たなくてはならないと考えたからだ。
ところが、選挙戦で竜崎始首相(高橋克典・58)が推す女性対立候補に押されると、鶴巻から渡された500万円を使い、市会議員を買収してしまう。
買収はタブーだが、同時に問題だったのは復讐を前にして弱みをつくってしまったこと。さらに目的のためなら手段を選ばない男になり始めたことである。
狡猾な相手は敵の弱みを見逃さない。鶴巻は鷲津と対立するようになると、この買収をネタに鷲津をあからさまに脅した。買収を警察に告発されたら、鷲津は逮捕される。
「これで君は終わりだ」(鶴巻、第8話)
もっとも、直後に鶴巻派の首相候補である厚労相の鴨井ゆう子(片平なぎさ・63)が、泰生を突き落としたのは自分の息子だと公表し、さらに事件の隠蔽工作には鶴巻が絡んでいることをほのめかしたことから、鶴巻周辺は大混乱。告発どころではなくなり、鷲津は一時的に命拾いした。だが、致命的な弱みが消えたわけではなかった。
買収問題の収束を図ってくれたのは竜崎だ。鷲津が鶴巻への復讐をやめることを条件に、買収問題の封印を約束した。
「君の選挙違反が世に出ることはない」(竜崎、第9話)
ただし、安心できるわけではない。竜崎も買収の事実を知っているということなのだから。そもそも竜崎は鷲津を手の内のコマ程度としか考えていない。泰生の事件によって鶴巻を追い詰めた鷲津が、マスコミでヒーロー扱いされると、せせら笑った。
「いいんじゃない、庶民の代弁者」(竜崎、第9話)
竜崎は鷲津の人気を利用しようと、いじめ・児童虐待政策を担当する総理補佐官に任用したものの、自分の胸三寸でいつでも逮捕させることが出来る。弱みはどこまでも付きまとう。
鷲津による“最も罪深い裏切り”とは
最終章を前にしての裏切りの応酬も面白い。鷲津事務所内には裏切り者がいるが、鷲津もまた秘書や周囲を裏切り始めた。やはり鷲津は非凡な主人公なのだ。
週刊誌に報じられた政治資金規正法違反問題は貝沼に丸投げ。泰生の事件の隠蔽工作を秘書の責任にした鶴巻と一緒だ。
鷲津と一緒に鶴巻らに挑んでくれた「週刊新時代」記者・熊谷由貴(宮澤エマ・34)も裏切った。戦友とも言える存在なのに斬り捨てた。
鷲津に対し、娘のいじめ被害について相談していた区役所職員が職場でパワハラ問題を起こし、その記事化を熊谷が進めていたが、鷲津が「それ、誤解みたいなんですよ」(鷲津、第9話)とストップをかけた。鷲津は代わりに野党参院議員の買春ネタを提供しようとした。
熊谷は拒絶したものの、鷲津はあらかじめ編集長に手を回していた。熊谷が「最低」と罵ったのも無理はない。
この鷲津の行動も鶴巻と同じだ。泰生を突き落とした犯人が鴨井の息子だと熊谷が報じようとした際、鶴巻は記事を潰した(第7話)。
盟友だった鶴巻派衆院議員・鷹野聡史(小澤征悦・48)との関係にもヒビが入り始めている。鷹野は泰生事件の真相解明に協力し、鶴巻追い落としにも足並みをそろえてくれたが、鷲津が自分だけ総理補佐官の地位を得たからだ。
しかし、鷲津による最も罪深い裏切りは家族に対してのものにほかならない。全ては泰生の無念を晴らすために始まったが、やっと泰生が退院した当夜、鷲津は家族そろっての夕食中に外出してしまった。
妻の可南子(井川遥・46)が怪訝そうな顔をしたのは当然だ。泰生は家族キャンプを楽しみにしているものの、果たして実現するのだろうか。
鷲津が落ちた最大の罠は、誰が仕掛けたものでもなく、権力闘争の中に身を置いてしまったことに違いない。
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