「こういうサークル、知ってるよね」妻を問い詰めたものの、気付くと泣いていた…41歳夫の苦悩と寂しさ
関係を再構築したいのに…
それからコロナ禍に入り、さすがの友里菜さんもサークル活動を自粛すると宣言した。それによって離婚話も立ち消えになった。そもそも、洋輔さんには離婚に踏み込む勇気もなかったのだ。ふたりとも在宅ワークになったり出社したりを繰り返しながら今に至る。この間、家族としてはお互いに思いやりをもって暮らしてきた。娘は両親と一緒にいる時間が増えたのを単純に喜んでいた。
「この娘も友里菜と義母の血を引いているのかと考えると、少し不安ですが、友里菜に言わせれば娘は自分とはまったく違う人種だと思う、と。僕はコロナ禍をきっかけとして、夫婦関係を再構築したいと考えていました。友里菜にもそう言いました。友里菜が心のうちをさらけ出したことで、僕らにはもうタブーはなくなった。きみが相手をしてくれなかったら風俗に行ったことがあると打ち明けました。すると友里菜は、『知ってる。なんとなくわかってた。楽しめた?』というんです。普通の妻なら嫌がるものではないのかと思ったけど、友里菜は『あなたが楽しんだならよかったと思って』と。常識でははかれないんですよ。それを僕が心から理解するのはむずかしい」
こういうことは理解しあえるものではないのかもしれない。尊重しあえるかどうかしかないのではないだろうか。趣味と感覚が合うか合わないか。相手が自由にするのをいいと思えるかどうか。
「最近、友里菜はまた活動を始めたようです。友里菜の会社はコロナ禍をきっかけに、働き方が完全にフレキシブルになったので、彼女は時間をやりくりしてうまくやっているみたい。なんとなくわかるんですよ、彼女の興奮度合いが生活の中で見え隠れするから。以前は飲み会が楽しいんだろうなと思っていた自分がバカみたいだなと思います」
妻が自分の知らない世界を楽しんでいることへの嫉妬、ある意味で自分にはなじめない世界で生き生きとしている妻へのモヤモヤした気持ち、そしてなにより自分を男として見てもらえない寂しさ。
「夫婦関係を再構築、なんてきれいごとは妻には通用しないんですね。そもそも夫婦のありようの定義がまったく違う。今年のお正月休みに3人で旅行したんです。娘ははしゃいでましたね。妻も心から楽しそうだった。僕も楽しかったけど、いつも心の一点に曇っているところがある。妻のように晴れやかに笑えない。僕はどうしたらいいんだろうと妻に言ったんですよ。そうしたら『あなたのしたいようにするのがいちばんだと思う』と。それが離婚という形であれ、現状維持であれ、どちらにしても私は受け入れるよと言われて、ますます自分が小さく思えた」
性的なことは価値観を含めてすりあわせるのがむずかしい。しかも洋輔さんの場合、常識的な彼と、ありふれた言い方をすれば“奔放な”妻との間には、接点さえないのではないだろうか。いつかは妻もそんな世界に飽きるかもしれないし、性欲が衰えてくる可能性も高い。それを粛々と待つ手もある。そう言うと洋輔さんは、寂しそうな顔をして遠くを見つめた。
[3/3ページ]