「こういうサークル、知ってるよね」妻を問い詰めたものの、気付くと泣いていた…41歳夫の苦悩と寂しさ
友里菜さんの過去
その後、妻の生育歴を彼は初めて詳しく聞かされた。両親は彼女が小学生のときに離婚、母はその後、再婚して友里菜さんには新しい父親ができた。この父親が優しくていい男で、彼女は「こんな人と結婚したい」とませたことを考えていた。それなのに、母は浮気をして継父とも離婚となった。
「友里菜が15歳のときだそうです。彼女は継父と別れたくなくて、色仕掛けで誘ったそう。でも継父から見れば娘に過ぎない。彼女はひどく傷ついて、母親がつけてくれた家庭教師を誘惑した。彼女の母親は事業をやっていてかなり稼いでいたそうです。一緒にいる時間は少なかったけど、教育にはお金をかけてくれたと言っていました。でも、どうやらその大学生の家庭教師は母親の愛人のひとりだった。それを知っていて、友里菜は彼を落とした。『母親の影響かしらね、私はほんの3歳くらいのときから女だった。家庭教師を寝取ったとき、母親が憎々しげにそう言ったのを覚えてる』と友里菜は言っていました」
それからの友里菜さんは性を謳歌した。自分の欲望のままに生きた。洋輔さんが友人の名前を出すと、学生時代からナンパだった男ね、知ってると声を上げた。
「あの人が洋輔の友だちだったなんてびっくり。世の中狭いわねって。世間話しているわけじゃないんだよと僕が言うと、『だから私、あなたの前では普通の女を装っていたの。あなたが常識的な人だから。自分が常識的でないことはわかってた。だから友人たちの誰かから漏れることを恐れて、あなたと友人を合わせなかった。ただね、あなたと一緒になれば私自身もひとりの男性で満足できるようになったり、結婚したんだからああいう奔放なことをしてはいけないと思えるようになるかもしれないと思ったの。でもごめんなさい、無理だった』としれっと言うんです」
許せないなら離婚されてもしかたがないと思っている。でもあなたが私の嗜好に合わせてくれてもいいんだけど、と友里菜さんは微笑んだ。
「オレはきみを愛しているんだよ、前にもそう言ったじゃないかと思わず声が大きくなってしまいました。すると妻は『私も愛してるわよ、家族として』と言った。なぜ男として見てくれないんだ……。気づくと僕は泣いていました。妻に愛されていない男として。わかった、じゃあ、しようと妻は言った。憐れまれているようなセックスをしました。虚しくて悲しくて、ちっとも楽しくなかった。『だって、あなたは家族なんだもの』と妻は言いました。継父が私を女として見られなかったのが今になるとよくわかる。でも継父は私を愛してくれていたのも知っている。娘として。私はあなたを夫として家族として、これ以上ないくらい愛してる。友里菜はいろいろなことを言ってましたが、結局、性的関係においては僕には興奮しない、と」
興奮だけが性ではない、安心感やリラックスした気持ちを求めたくなることはないのかと彼は尋ねた。「性を楽しめるのは興奮と刺激があるからでしょ」と友里菜さんはとりあわなかった。
「性というものに対する根本的な考え方が違うんですよね。友里菜は常識からはずれていることはわかっているけど、それが僕を傷つけていることには思い至っていないんだと思う」
洋輔さんは力なくそう言った。
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