【放送法問題】政治報道を巡る「自民党vs.テレビ」の長き戦い 田中角栄の“目論見”と本当の問題点

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NHK経営委員人事に表れた安倍元首相色

 それから5年後の2012年、安倍氏は民主党から政権を奪還。首相に返り咲くと、よりテレビ界への力を強めようとした。翌2013年、政府はNHK経営委員5人(計12人)の国会同意人事案を衆参両院に提示したが、うち4人はあからさまに安倍氏寄りだった。

 例えば、日本たばこ産業(JT)顧問だった本田勝彦氏(81)は、安倍氏の小学生時代の家庭教師。経済人による安倍氏の応援団「四季の会」のメンバーでもあった。ちなみに前NHK会長の前田晃伸氏(78)もメンバーだった。

 当時の安倍氏周辺の1人は「本田さんみたいな人はありがたい。指示をしなくたって安倍氏の思い通りに動いてくれる」と語っていた。指示が露見すると問題になるからである。

 2014年に発足した第2次安倍改造内閣で女性初の総務相に就いたのが、高市早苗氏(62)である。渦中の人だ。

 2016年には衆院予算委員会で、テレビ局が政治的公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、停波を命じる可能性に言及し、物議を醸した。この問題は9年越しで続いていることになる。

 なぜ、放送法を巡る争いは長い間続いているのか。どうしてテレビ局は独立した報道機関になれないのか。まず、テレビ局側のエラーも理由として挙げられる。

 相当なキャリアを積んでいるはずのデスクがチェックした映像を、島氏のような人物によって簡単に再編集できたら、政治家はテレビ界を舐める。どうにでもなると思われる。

メディア間の争いは放送法の真の問題点を見えにくくする

 テレビ局の独立という大目標より、メディア間の争いになってしまいがちなのも問題だろう。1993年に起き、政治的公平性が争点となったテレビ朝日の「椿事件」の場合、同局内からはフジの関与を疑う声が上がった。

 テレ朝の報道局長の問題発言が、民放連の会合という密室内で行われ、それをフジ系列の産経新聞がスクープしたためだ。

 14年後の2007年、「発掘!あるある大事典II」の不祥事が発覚すると、今度はフジから“朝日グループの意趣返し”と見る声が上がった。この問題をスクープしたのが、当時は朝日新聞が発行していた「週刊朝日」(現在は朝日新聞出版)だったからだ。

 クロスオーナーシップ制度を確立させた田中元首相の目論見通りなのかも知れない。ライバル間で争う分、政権がテレビ界を操れてしまうという放送法の真の問題点が見えにくくなる。

 海外の先進各国には政権から独立し、政治の介入を許さない「独立放送規制官庁」がある。そろそろ日本も、視聴者が設立を望む声を上げるべきではないか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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