佐々木朗希の好不調を簡単に見抜けるバロメーターとは 打たれる時は何がダメ?(小林信也)
吉井投手コーチの存在
私がこの事実に気付いたのは1999年、巨人の新人・上原浩治が前半戦で12勝をマークし旋風を巻き起こした時だ。上原はなぜ打たれないのか? 注視して、球の速さ以上に、左足が着いてから球を離すまでの間が極端に早いことが目についた。打者が間を取ろうと小さくバックスイングした時にはボールが飛んでくる。完全に先に入られて手も足も出ないのだ。
その点に注目するとMLBの主戦投手は多くがそうだった。ダルビッシュ有も、不調の時は遅い。好調時には間が短い。山本由伸も抜群に短い。前田健太も短い。
さらに言えばプロ入り後に佐々木を指導してきた吉井理人(現監督)の変化も興味深い。プロ入り当初の吉井は、右腕をややアーム式に大きく後ろに伸ばし、左足を着いた後に振り下ろす投法だった。ヤクルト時代の96年、松井秀喜(巨人)に打たれた印象的なホームランがある。この時の吉井は典型的な日本人投手のリズムで、足を着いてから腕を振っている。この長い間だと打者からすればタイミングが取りやすいのだ。
おそらく吉井はその事実に気付いたのではないだろうか。MLBに行ってからの吉井はこの間が明らかに変わっている。左足を着く時には右手が前に出る投げ方にすっかり変貌していたのだ。言い換えれば、足を前に踏み出す時、スッとおへそを打者に向け、自然と先に右手が前に出る。打者に横向きで向かうのでなく、胸のマークをしっかり見せて打者に正対して向かっていく。より攻撃的で打者は圧倒される。
吉井が佐々木に何を伝え、どう導いたのか詳細は伝わっていない。佐々木自身が上体の切り換えの早さを意識しているのかも不明だ。だがこの辺に“完全男”への成長のヒントが隠されているのではないか。
侍ジャパンのキャンプで、ダルビッシュら投手陣が捕手の後ろで佐々木の投球を見つめた。さすがに緊張したようで、練習後「力が入ってしまった」と佐々木が苦い表情を浮かべた。確かにこの日の佐々木は間が長かった。つまり、力が入ると間が長くなる傾向がある。力むと無意識に従来の癖が出てしまうのだろう。
佐々木がこうなると打者は捉えやすい。そこは心配だ。が、幸いWBCのベンチには投手コーチとして吉井がいる。吉井のさりげない助言で佐々木が「いい時の間」を取り戻したら頼もしい投球を見せてくれるだろう。