「バフムト攻防戦」はウクライナ軍の抵抗でワグネルが苦戦 専門家は「ロシア軍総崩れの可能性も」
クリミア半島の重要性
ウクライナもロシアも、クリミア半島の領有こそが戦争の帰趨を決すると考えている。バフムトの戦略的価値が跳ね上がる理由だ。
「ウクライナはクリミア半島をロシアから奪還し、2014年3月以前の国境線に戻すことを“戦争の勝利”と公言しています。一方のロシアは、今回の軍事侵攻でウクライナ全土を手中に収めるつもりが、激しい抵抗に遭い頓挫しました。さらにクリミア半島も手放すとなると、積み重ねてきた“ウクライナのロシア化”が白紙に戻ってしまいます」(同・軍事ジャーナリスト)
クリミア半島にはロシア軍の重要拠点もある。セバストポリには海軍の基地があり、黒海艦隊の本部が置かれているのだ。
クリミア半島をウクライナ軍に奪還されると、黒海艦隊は“本拠地”を失ってしまう。ロシアにとって最悪のシナリオであることは論を俟たない。
半島を絶対に死守したいロシア軍は、バフムト陥落を目指す必要性があるのだという。
「『戦略的価値のないバフムトにこだわるロシア軍の戦術は理解できない』と報じたメディアもありましたが、事実と異なります。バフムトを陥落すれば、制圧しているマリウポリと兵站がつながるのです。ロシア国内からバフムトを経由して黒海に出るルートが確保できるわけで、クリミア半島の防御が強固になります」(同・軍事ジャーナリスト)
レオパルト2の準備
一方、クリミア半島を奪回したいウクライナ軍にとってバフムト陥落は絶対に避けたい。
「クリミア半島のロシア軍を攻撃するには、まず南部のヘルソンが拠点の候補となります。ところが、ヘルソンの前には広大なドニエプル川が流れています。戦車や榴弾砲といった大型兵器を渡河させようとすると、ロシア軍の返り討ちに遭う可能性が高いのです。一方、ウクライナ東部はクリミア半島と陸路でつながっています」(同・軍事ジャーナリスト)
NATO諸国は戦車レオパルト2のウクライナへの供与と訓練を開始した。ウクライナ軍にとっては、バフムトなど東部の要衝からレオパルト2が出撃し、黒海沿いに進撃を続けてマリウポリなどを解放し、クリミア半島に総攻撃をかけるのが理想のシナリオだ。
「ウクライナの戦車兵はロシア製の戦車しか知りません。そのためレオパルト2を動かすには研修が必要で、簡単には習得できません。というのも、ロシアの主力戦車T-72は乗組員が3人ですが、レオパルト2は4人が必要で、設計思想から異なるからです。レオパルト2の実戦投入は、早くても夏くらいだと見られています」(同・軍事ジャーナリスト)
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