昭和最大の不倫スキャンダル「西山事件裁判」で西山太吉氏を追及した検察官が晩年に語っていたこと
不倫は「重大犯罪」なのか?
澤地さんは「密約」の中で、この事件は「国家機密」、「知る権利」、「情を通じ」の「三頭立て」のテーマがあったとしつつ、「男と女のみそかごとの持つ圧倒的な力を思わずにいられなかった」と指摘。西山事件の核心をそこにずらした検察について「みごとなすりかえ」と書いている。そのすりかえに父が加担したことは事実だ。
ちなみに「密約」は事件の本質に的確に迫っているが、検察も澤地さんも、言葉使いが驚くほど古い。「あなたをふしだらな女として烙印を押そうとする人々」「ひとたび男と深い仲となってしまった『女の弱さ』『弱い女の立場』」「四十代の女ざかりを迎えた生身のひとりの女」などの表現を読むと、この事件の一審判決から8年後に共同通信に入社した私には別世界の言葉と思える。同世代の女性はまだまだ保守的だったとはいえ、いくらなんでもこんなにはか弱くはなかったからだ。
本稿を執筆するにあたり、当時話題になったという蓮見喜久子さんの手記(「外務省機密文書漏洩事件 判決と離婚を期して 私の告白 蓮見喜久子」「週刊新潮」1974年2月7日号)も読んでみたが、私の感想は「この時代の女性は、こういうスキャンダルに巻き込まれてしまうと本当のことを言えなかったんだな」だ。「密約」によると、蓮見さんは一審判決後に当時のテレビ番組「3時のあなた」に出演、作家・戸川昌子が西山さんについて聞くと「あたくし自身、正直言って存じ上げない方なんです」と答えて「少し笑った」という。
さすがに驚いたのは、蓮見さんが夫とともに「女性自身」(74年2月9・16日合併号)のインタビューに応じていることだ。しかも、記者がこともあろうに蓮見さんの夫に西山さんについて「奥さんの好きなタイプですか?」と聞いている。その答えは「あんなの好きではない。あんな強引で粗野な男は好きではないんだ、僕はいっしょに暮らしていていちばんよく知っている」。ここまで来ると、私にもシュールで意味不明だ。
西山事件以降、芸能人を筆頭に著名人が不倫をすると、重大犯罪を犯したようにテレビのワイドショーや週刊誌が追及するようになった。芸能人の場合はテレビコマーシャルが中止になったり、しばらくテレビ番組に出演できなくなったりする。
芸能人の場合は仕方ないのかもしれないが、いつまでたっても不倫をすると「重大犯罪」のように報じられるのには違和感もある。こんな国は世界の中でも日本だけだ。不倫が発覚した場合、通常、謝るべき相手は男性ならその妻と浮気相手、女性ならその夫と浮気相手だけだと思っている。
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