なぜコオロギ食はここまで憎まれる? 敷島製パン、河野大臣と次々に炎上(中川淳一郎)

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「Pasco」で知られる敷島製パンのツイッターが2月17日から、本稿を書いている2月27日まで更新されていません。理由は炎上を恐れているからでしょう。

 何があったかといえば、同社がコオロギの粉末入りパンを昨年通販限定で発売したことが今になって広がったのです。コオロギ粉末のことを隠して販売したワケでもないのに、同社のツイッターには非難の意見が多数書き込まれ、不買宣言まで出現。ツイートを復活させる際にも、批判の声が殺到すると思われます。

 この炎上の過程で2020年12月に「Korogi Cafe」というコオロギ粉末入りブランドを発売していたことが明るみに出て、「そんな前からやっていたの……」などと言われました。発売当時、J-CASTニュースが同社に販売意図を取材したところ、以下のように答えました。

〈世界人口増加に伴い、早ければ2030年ごろに世界的なたんぱく質不足が予測されています。その対応として、地球に優しい次世代のたんぱく源候補の一つである昆虫食に着目しました。その中でも、コオロギは育てやすく味が良いことから人気となっています〉

 同社は悪いことをしたワケではないのですが、世の中にはコオロギ食に反対の声が多すぎる。日本は「空気感」というものが世論を作り、人々の行動様式に影響を与えますが、コオロギ食は抵抗が強すぎました。他にもコオロギ関連商品を出している会社は無印良品やファミリーマートなどがあるのですが、パスコは「超熟」シリーズのコンセプトとして「余計なものは入れない」を掲げています。何かと添加物が批判される同業他社との差別化がここにあったのに裏切られた気持ちになったのでしょう。

 なぜコオロギをここまで憎む人がいるのかといえば、まず、その色形がゴキブリに似ていることがあります。あとは新しいものに対する反発もあります。ヴィーガンは昔からネットで反発をくらいがちな存在。そこに似た感覚を持ったのかもしれません。さらに、SDGs文脈へのうさんくささを感じる人もそれなりにいるのでしょう。「上級国民は肉を食べて下級国民は虫を食えってか?」という反発もあります。

 そんな中、「ヤマザキ」がツイッターのトレンドに入りました。それを見ると、スーパーの棚でヤマザキパンはよく売れているものの、パスコのパンは売れていないと写真つきで投稿されています。たまたまかもしれませんが、パスコ憎し!の人々にとってはどうでもいい。「コオロギパンを発表したせいだ」「我々の不買運動が効いている」と考え、ますます勢いづきます。

 余波もあり、コオロギ食を憎む人々は河野太郎デジタル相が昨年コオロギを食し「おいしかった」と感想を述べた記事を発掘。晴れて河野氏に対しては「デマ太郎」「ブロック太郎」に続く「コオロギ太郎」というあだ名が誕生し、ツイッターでトレンド入りしたのでした。「ブロック太郎」の由来は、自身と意見の異なるツイートをする人や、自身を批判する人は軒並み華麗にブロックすることにあります。ワクチンとマスクに疑問を抱いた人はブロックされます。えぇ、私も当然ブロックされています。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2023年3月16日号掲載

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