国立健康危機管理機構は岸田首相の肝いりだが…次のパンデミックに備え日本がやるべきことは

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「ワクチン開発大国」は見る影もなく…

 今回のパンデミックで幸いだったのは、医療技術の格段の進歩のおかげで、有効なワクチンが極めて短期間で開発されたことだ。

 メッセンジャーRNAタイプのワクチンを複数回接種して免疫力を高めたことで、先進国を中心に多くの人々が日常生活を取り戻しつつある。

 だが、かつてワクチン開発大国と言われた日本は見る影もなかった。ワクチンの副反応を巡る訴訟の後遺症のせいで国内のワクチンメーカーの能力はがた落ちになっていたからだ。

 ワクチンとは異なり、飲み薬では塩野義が1社で気を吐いた。

 欧米のメガファームと比べると、塩野義の売上高は10分の1以下に過ぎないが、世界で3番目となる新型コロナの飲み薬「ゾコーバ」を実用化した。

 塩野義は承認の過程で2022年5月に鳴り物入りで誕生した「医薬品の緊急承認制度」の適用にトライしたが、「この制度は有効に機能しなかった」との批判が相次いでいる。

 審査に時間がかかり、通常の承認制度の運用と大して変わらなかったからだ。

 この制度の元になっているのは米食品医薬品局(FDA)の公衆衛生上の非常事態宣言下における緊急使用許可(EUA)だ。米国ではコロナ禍で20近くの薬やワクチンが速やかに承認された(有効性がなかった4製品はその後許可が取り消された)。

「仏を作って魂を入れず」の緊急承認制度の運用が早期に是正されることを期待したい。

 塩野義は国際展開にも積極的だ。3月末までに韓国や中国での承認を目指すとともに、米国でも2月から臨床試験を開始しているが、気になるのはゾコーバの原材料の全量を中国に依存していることだ。

 塩野義は新たに日本やインドから調達することを検討し始めた(1月6日付日本経済新聞)が、昨年5月に成立した経済安全保障推進法上の「特定重要物資」に指定するなどして、政府も塩野義の取り組みを支援すべきだろう。

 パンデミックでは国際協力は欠かせないが、他国からの支援を引き出すために効果的なのは自国の強みだ。多くの課題を抱える日本だが、飲み薬の開発能力に磨きをかけることで次のパンデミックに備えることが最も有効なのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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