戦後の混乱期にバレエに情熱を注いだ人々が 話題のドキュメンタリー映画の舞台裏

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「戦後間もない混乱期の日本にバレエに情熱を注いだ人たちがいた。その姿や想いを、いまを生きる人々に伝えたいと思ったんです」

 と言うのは、テレビ番組やコンテンツ制作などを手がける、TBSスパークルに所属する宮武由衣監督だ。最新作のドキュメント作品「東京SWAN 1946~戦後の奇跡『白鳥の湖』全幕日本初演~」が、3月17日に東京から開幕するTBSドキュメンタリー映画祭に出品され、早くも話題を集めている。

「企画は2~3年ほど温めていて。以前にNHKで、バレエ団を支援する企業の担当者を描いたドラマを制作した際、“日本のバレエ史を理解しないと地に足が着いた作品にならない”と感じた。それで多くの資料に目を通したことがきっかけになりました」

 その際、昭和21年に東京・日比谷の帝国劇場で「白鳥の湖」の全幕が初演されたことを知ったという。

「食糧や物資が不足する中、ダンサーやスタッフたちは、持ち前の創意工夫とたくましさで乗り切っていきます。劇場は連日、押しかけた大衆の熱気で溢れ、観劇した魚屋の主人が感動のあまり、後から大きな鮮魚を持参して関係者をねぎらったとか。こうした人々の熱狂ぶりを示すエピソードは決して少なくありません」

針に糸を通すような取材

 本作でガイド役を務めるのは、先のNHKドラマにも出演した現役バレエダンサーの宮尾俊太郎(39)だ。

「ほどなく宮尾さんが“当時を知る方に話を聞いてみたい”との意向を示し、さらに“初演をいまの時代によみがえらせたい”と。当初、私は映画かドラマにしたいと考えていたんですが、まずは宮尾さんの姿を通したドキュメンタリーを作ることにしたんです」

 宮武氏がまとめた企画書は、ほどなくドキュメンタリー番組の担当プロデューサーからお墨付きを得た。

「すぐに宮尾さんと二人三脚で取材を始めました。出版社や識者などの協力を得て、実際に舞台に上がったダンサーや関係者を探して歩いたんです。すでに多くの方が鬼籍に入られており、撮影をまっとうするにはギリギリ最後のタイミングだったかもしれません」

 針に糸を通すような取材の日々。加えて70年以上前の公演を“再現”させる試みの困難さは「想像以上だった」と宮武氏は振り返る。

「衣装にパラシュート用の生地が使われていたり、トゥシューズはズックみたいな厚手の綿素材製だったり。幸いなことにバレエ衣装を扱う老舗業者に古いものが残されていて、王子の衣裳はその生地を生かして仕立て直したんです」

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