AIはしれっとうそをつく うそも本当もないアートとの相性は良好?(古市憲寿)

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 マイクロソフトのBing AIによれば「古市憲寿さんは『週刊新潮』で『古市式』や『古市憲寿のモノ言う』などの連載を持っており、社会現象や流行について独自の視点で分析したり、自身の経験や考え方を語ったり」しているという。

 Bing AIとは流行のAIチャットの一つである。「春にオススメの旅行先」を聞けば伊豆高原の桜や花畑、はままつフラワーパークなどを教えてくれるし、「海賊をテーマに俳句を作って」と言えば「秋の風/海賊旗なびく/勇ましく」などの作例が無数に出てくる。

 論文の要約から、小説のプロットまで考えてくれるので、業務効率が非常に上がると評判である。

 同時にAIはしれっとうそもつく。「古市式」や「古市憲寿のモノ言う」といった連載はこの世に存在しない。だがポイントは、いかにもありそうな点だ。「古市式」なんて「古い知識」と同音異義となっていて、皮肉も効いている。古い知識ばかりですみませんね……。

 こうしたAIは大量のテキストデータを学習した上で、回答が好ましいものか人間による評価を受けて開発されてきた。そのため「人間が喜びそうな答え」を言いがちな傾向にある。

 だがAIがうそをつこうが、大きな問題ではない。そもそもこの社会はうそにまみれている。激しく太った人に「痩せましたね」と伝える優しいうそもあれば、ディープステートが世界を支配しているといった陰謀論にも根強い人気がある。相手がAIだろうが、人間だろうが、全幅の信頼を置かないことが大事なのだろう。

 ところで2022年には、画像生成AIが大流行した。「海岸で遊ぶ犬を印象派の作家風に描いて」のようにテキストで指示するだけで、あっという間にイラストが誕生してしまうのだ。入力内容を工夫することで(「呪文」と呼ばれる)、大作を完成させることも可能だ。「Midjourney」というAIで生成された画像は、アメリカ・コロラド州の美術品評会で1位を獲得、物議を醸した。

 画像生成AIに感動し、評価しているのは人間である。思想や意図といったものがないはずのAIが作った絵だったとしても、それを人間は叙情的に読み込み、鑑賞して、議論する。

 その意味でAIとアートの相性は想像以上にいいのかもしれない。芸術作品にはうそも本当もない。優れた絵と劣った絵はあるが、それは非常に主観的に判断される。そのようなファジーな領域でこそAIは活躍できるのではないか。考えてみれば、我々人間は古来、無生物である山や海といった絶景に感動してきた。それを擬人化するのも得意だ。AIの生み出す作品についてのかんかんがくがくの議論もまた「人間らしさ」の発露なのである。

 一方で、うそをつくという問題が解消されない以上、厳密性が要求される分野でのAI利用にはしばらくの間、注意が必要だろう。Bing AIに「あなたはうそをつきますか」と聞いたら「私はうそをつきません」とまたうそをつかれてしまった。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

週刊新潮 2023年3月16日号掲載

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