栗山監督、WBCで「V逸」でも引く手あまた 1次リーグ全勝の“采配力”を超えた手腕とは
源田の盗塁が「韓国戦」唯一のサイン?
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)日本代表は3月12日にオーストラリアに7-1で快勝し、4戦全勝での1次リーグ突破を果たした。大会屈指の先発投手陣は大谷翔平(エンゼルス)、ダルビッシュ有(パドレス)、佐々木朗希(ロッテ)、山本由伸(オリックス)の4投手全員が勝ち星を挙げ、打線ではラーズ・ヌートバー外野手(カージナルス)が攻守に奮闘し、近藤健介(ソフトバンク)、吉田正尚(レッドソックス)両外野手は大谷とともにポイントゲッターになった。日本代表は4試合とも「史上最強メンバー」の前評判通りの完勝だった。WBC優勝経験がある元コーチは「今回の代表はベンチが策を弄する必要がない選手がほとんどで、力でねじ伏せた印象が強い」と準々決勝にコマを進めた戦いぶりを総括した。
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栗山英樹監督(61)はオーストラリア戦後に臨んだ記者会見で「世界一に向けて選手たちにどんな言葉をかけるか」と問われ、こう答えた。
「僕が言葉をかけることはもうないんで、選手たちが一番、世界一になりたがっている。その思いを何とか形にするために全力を尽くすだけ。勝ちに近づけば近づくほどチームは一つになるはず。もっともっといいチームになれるように、ある意味邪魔しないように手伝っていきたい」
黒子に徹し、選手が力を発揮できるようサポートするだけと割り切る指揮官の言葉にも、今大会の日本代表のチーム力の高さが象徴されていた。
前出の元コーチによると、1次リーグの日本は、特に攻撃面でベンチが戦況を見ながら手を打つことはほとんどなかったという。1次リーグ最大のヤマ場とみられていた3月10日の韓国戦も序盤にリードされながらも徐々に地力の差が表れ、終わってみれば13-4の大勝だった。
「この試合で唯一、ベンチが動いたのではないかと思われるのはダルビッシュが3点を先制された直後の三回の攻撃だった。源田(壮亮内野手=西武)が粘って四球を選んで、次打者の中村(悠平捕手=ヤクルト)の打席で源田が盗塁を決めた。単独スチールは考えづらく、韓国の金広鉉投手が制球に四苦八苦しているところで、源田はスチールが可能だとベンチにシグナルを送っていたと思う。栗山監督はそれを受けてランエンドヒットのサインを出したのではないか」
脱「スモール・ベースボール」のメンバー選考の成果
結果は中村が見逃しストライクを取られたものの、完全に投手のモーションを盗んでいた源田は二盗に成功した。得点圏に走者を進めたことで、投手にはよりプレッシャーを与え、中村は四球。チャンスを拡大し、その後に一挙4点と電光石火の逆転劇を見せた。前出の元コーチは、「仮に源田が二塁でアウトになっていれば、さらに韓国に流れが傾きかねなかったが、日本チームには盗塁成功の確信があったのだろう。奇抜な作戦でも勇気ある作戦でもなく、監督なら多くが同じような手を打つはず」とセオリー通りの采配と強調した。
さらに元コーチが続ける。
「我々が優勝したときもそうだったが、日本はバントやエンドランなど小技や機動力を駆使した“スモール・ベースボール”を特長の一つとしていた。しかし、今回の主力は機動力や守備力を二の次にし、打力優先で選出された。1次リーグは力が劣る相手だったため(先発メンバーの)8、9番以外、自由に打たせるだけで大量得点できることを実証した。これは大谷を中心とし、そういう野球をやるんだとイメージした栗山監督のメンバー選考の成果でもある」
そもそも栗山監督が代表監督でなければ、“教え子”の大谷の招集がすんなり実現していたか。また既に選手として成すべき事を成したダルビッシュや、MLB1年目の重要なキャンプを離脱することになる吉田も招集に応じていたか――。
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