NHK「大奥」で取り上げられているシリアスなテーマの数々…血縁主義、不妊問題に対する答えは?
血統主義、不妊問題についての答え
宰相論は家光と綱吉の赤面への向き合い方でも垣間見えた。その描き方も理屈っぽくない。
赤面について家光は「(国が)滅ぶのを見届けよう」と、あきらめていた。5代将軍・綱吉(仲里依紗・33)も対策に熱心ではなかった。2人と吉宗は違った。
家光と綱吉が赤面対策に乗り出していたら、状況は変わっていたかも知れない。ただし、2人が無能だったとは言い難い。吉宗とは環境や立場が異なった。
家光は父・家光公の身代わりとして将軍に据えられたので、当初の権力基盤が弱く、政治の実権は春日局に握られていた。これでは手腕を発揮できない。
綱吉には後継者問題がのしかかった。1人娘・松姫が病死したため、父・桂昌院(竜雷太・83)から子づくりを強いられ続けていた。桂昌院は不妊の理由が自らの猫殺生にあると勝手に考え、悪法として人々を苦しめた生類憐れみの令(1685年)まで綱吉に出させた。
綱吉は月経がなくなっても桂昌院から子づくりを強いられた。無理矢理に将軍にさせられた家光と同じく、哀れだった。政治どころではない。底流にあったのは血統主義にほかならない。
綱吉には心穏やかな日が来ないのかと思われたが、そうではなかった。家光にとっての有功と同じく、大奥総取締の右衛門佐(山本耕史・46)が綱吉の心を温めるようになる。硬軟の話の織り交ぜ方が巧みだ。
貧しい公家から大奥に入った右衛門佐は当初、権力欲の塊だった。綱吉を出世のための道具としか見ていなかった。知恵が回り、瞬く間に総取締の座を得る。
だが、綱吉が権力者の孤独や後継者問題の悩みを抱えていることを知り、愛おしむようになる。これも最初は反目していた家光と有功の関係と似ている。女と男の仲は分からない。
やがて綱吉は自害を決心する。それを未然に防いだのが右衛門佐だった。まず、生類憐れみの令などのせいもあって、評判の悪かった綱吉を、大奥の男の1人が暗殺しようとした。男は「皆わろうとるわ。醜い老婆が夜な夜な男をくわえこんどるとな」と綱吉を嘲った。
暗殺は失敗したものの、綱吉は男の言葉に激しく傷つく。
「私は結局、何一つ後の世につなぐことが出来なかった……」(綱吉)
死を考えた。だが、右衛門佐から、こう諭される。
「生きるということは、女と男ということは、ただ女の腹に種を付け、子孫を残すことではありますまい!」(右衛門佐)
これが血縁主義、不妊問題に関する「大奥」の答えなのだろう。ボリュームたっぷりだから、高評もうなずける。
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