「資格」を通じ自信を持って働ける若者を育てる――中川和久(大原学園理事長)【佐藤優の頂上対決】
先行きの見えない世の中にあって、「資格」は人生設計の大きなよすがとなりうる。その資格所得分野で圧倒的な存在感を示しているのが、専門学校と資格講座を運営する大原学園だ。高い合格率と就職率を誇り、いまでは数多くの大学とも提携している。そこではどんな教育が行われているのか。
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佐藤 日本の教育において、専門学校は独自の発展を遂げ、着実に成果を積み上げてきました。実用知識の分野では、もう大学は敵わないのではないかと思います。その中で、大原学園は実績にしても規模にしても抜きん出た存在です。
中川 私どもは主に高校卒業生を対象とした各種の「専門学校」と、社会人や大学生が対象の「資格の講座」を運営しています。全国に87校あり、グループ校も合わせると114校になります。
佐藤 非常に大きな学校です。毎年、どのくらい入学者がいるのですか。
中川 2022年度は1万1357人が入学しました。高校新卒者が75.9%、大学・短大の卒業・中退者が12.1%で、あとは留学生などです。専門学校は標準が2年、資格の講座はさまざまですが、集中資格取得コースもあり、こちらは月曜日から金曜日まで毎日授業があって、8カ月から2年で資格取得を実現させます。
佐藤 就職や資格取得の実績もすごいですね。
中川 2021年度の卒業生では、就職希望者5855名中5800名が就職し、就職率は99%です。また資格の方では、公認会計士論文式試験は安定して毎年300人以上の合格者を出していますし、税理士試験官報合格者も300人前後で、合格者全体の過半数を大原生が占めています。
佐藤 専門学校は、公務員を目指す学校から、公認会計士や税理士資格を目標にしたり、医療事務、保育、コンピューターグラフィックス、アニメを学ぶ学校まで、多岐にわたっています。当然、はやり廃りがあると思いますが、いまは何が人気ですか。
中川 社会全体でデジタル化が進んでいますから、情報処理分野ですね。ゲームやコンピューターグラフィックスも人気があります。また、これからは社会保険労務士を目指すコースが伸びます。これは働き方改革で会社が就業規則など、人事・労務分野を見直さなければならなくなったという要因が大きい。ほとんどの中小企業はそれに対応できていませんから、社労士が税理士と一緒に整備していくことになります。
佐藤 人材不足が叫ばれていた介護分野はどうですか。
中川 一時は定員いっぱいまで集まっていましたが、いまはずいぶんと少なくなりました。留学生もコロナ禍でやってこない。
佐藤 介護は仕事がキツいし、社会的評価も低い。そこに若い人は敏感に反応しているのでしょうね。では、公務員はいかがですか。
中川 実は一番多いのは、全体の約4割を占める公務員志望者です。ですから実質的には、公務員試験対策の学校と言ってもいいかもしれません。実際に首都圏や関西圏の公務員の多くは私どもの学校の出身者です。
佐藤 先の見えない時代ですから、みんな安定を求めている。私が勤めていた外務省の一般職は高卒から採用されますが、他の役所に比べると生涯給与は3倍くらい違いますよ。
中川 そうなのですか。
佐藤 在外公館に行くと、第2給与がつくからです。20代後半でアフリカや中南米に赴任すれば、年収は1千万円台になります。
中川 それは貴重なお話です。進路指導では、そこをきちんと押さえないといけないですね。
佐藤 私がいた頃の印象では、専門学校から外務省に来た人は長続きする。また事前に仕事の内容をよく把握していました。
中川 私どもは全国の公務員の情報を集め、就職してからミスマッチがないよう就職指導をしています。学園の最終的な目標は、幸せな就職です。そのために生徒に資格や就職という目標を設定し、勉強の方法を教え、訓練するのです。
佐藤 勉強の方法が習得できれば、目指す試験だけではなく、その後の仕事にもずっと使っていけますね。
中川 ええ、そこが重要です。でも大学はやり方を教えない。
佐藤 その通りです。
中川 やり方を教えれば、できるようになります。すると自信を持つ。専門学校も資格の講座も、結局は生徒が自分で壁を乗り越えることを目指しているのです。
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