「馬鹿にしないでよ。私は全部知っているんだから…」妻が激怒しても、マリアさんとの関係は“不倫ではない”という40歳夫の身勝手な考え方

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コロナ禍で応援していた店で…

 結婚して2年で娘が産まれた。佳世さんは半年ほどで仕事に復帰、近くに住んでいた宣之さんの母が全面的にバックアップしてくれた。宣之さんの母と佳世さんは、出会ったころから馬が合った。

「仲がいいんですよ。話を聞いていると、どっちもけっこう勝手なことを言ってるんだけど、お互いに認め合っている。僕から見るとふたりともそそっかしくて、それをふたりがツッコミあってるから、なんだかついつい笑っちゃって。そうするとふたりが『笑ってないで手伝ってよ!』と同時に叫ぶ。そんな感じで平穏な日々でした」

 母は週末の夜、自分が娘をみているからふたりで食事でもしておいでとよく言ってくれた。夫婦は日曜日に母を外出させた。母は近所の友人と日帰り旅行をしたり、旧友と食事に行ったりしていた。協力しあって4人の暮らしはうまく回っていたのだ。

 ひとり娘が小学校に入ってすぐコロナ禍となり、大変な時期もあったが、ふたりとも基本的には出社していた。

「ただ、あの頃は本当にストレスがたまりましたね。僕は一応、部署のまとめ役だったのですが、部長が体調を崩して入院するし、部下たちは出社停止でリモートワークだし。ひとりで奔走している感じでした」

 最初の緊急事態宣言が明けたころ、とある飲食店から連絡があった。店が危ないから助けてほしいという内容だった。

「今はあまり使わなくなった表現だけど、いわゆる“ニューハーフ”の店でした。同僚がその店が好きで、ときどき行っていたんです。仕事の接待で利用したこともあります。ママが僕と同い年で。久しく行ってなかったんだけど、大変なんだろうなと思って足を運んでみました」

 がらんとした店内で、ポツンと座っていたママが、彼の顔を見るなり立ち上がって歓迎してくれた。愚痴を聞き、心から慰め励ました。それというのも、彼はママに恩義があったからだ。

「仕事上、どうしても取引を成立させたい相手がいたんですが、なかなかうまくいかなかった。後輩が相手社長がこういった店が好きらしいと情報を仕入れてきて。社長を接待したときに、こっそり耳打ちしておいたママがものすごくいい働きをしてくれたんです。それで取引が成立したといってもいいくらい。上司や役員たちもそれから店を贔屓にしていました。でもあのコロナ禍ではね、人を連れていくわけにもいかなくて……」

 それでも宣之さんは諦めず、せっせと店に通った。その様子をじっと見ていたのが、店に入ったばかりのマリアさんだった。「今辞めさせたら、この子は行き倒れになっちゃう。天涯孤独な子なの」とママが紹介してくれたマリアさんは20代半ば、もともと小柄で性自認も女性。当時はホルモン剤を常用していて、少し胸が膨らんできたところだった。

「不思議な魅力をもっている子でした。妖精みたいな感じというか。口数が多いわけではなかったけど、気が利いていて聞き上手だった。僕がつい仕事の愚痴を言うと、真剣な表情で聞いてくれました」

 マリアさんは帰りに必ずハグしてくれた。それがなんとも心地よかったと宣之さんは言う。そして色白の華奢な手がひらひらと宙を舞い、「また来てね」と彼女は微笑むのだ。

「恋愛とはいえないんだけど、彼女といると浮き世の憂さを忘れるというか、自分が浄化されていくような不思議な快適さがありました。店は休業していた時期もあり、その間、僕はマリアとデートを繰り返していた。いつも少しだけお小遣いをあげていました」

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