「食道がんリスクが50倍」はどんな人? 何年禁煙すれば非喫煙者と同じになる? がん予防研究の最前線

ドクター新潮 ライフ

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肉を食べるのは問題ない?

 がんになりたくなければ、たばこもダメ、お酒もダメ……。何やら人生が無味乾燥なもののように思えてくるが、「食」はどうか。これについては「選び方」「組み合わせ方」でがんを遠ざけられるかもしれないというから、実践のしがいがあるのではないか。

「昔は焦げた部分を食べるとがんになると言われましたが、今では全く根拠がないことが分かっています。また、『肉を食べるとがんになる』とも言いますが、日本人はそれほど気にしなくていいと思います」

 と、中川氏。佐藤氏も同意見で、

「日本人はそもそも欧米人と比べるとそれほど肉を多く食べる習慣がありません。実際、20年の厚労省の国民健康・栄養調査によると、日本人の赤肉・加工肉の摂取量は1日あたり70グラムで、世界的に見ても最も摂取量の少ない国の一つです。日本人の平均的な摂取の範囲であれば、加工肉や赤肉が発がんリスクに与える影響は少ないといえます」

 赤肉とは牛、豚、羊などの肉で鶏肉は含まれない。世界保健機関(WHO)の一機関である国際がん研究機関(IARC)はベーコンやハムなどの「加工肉」を、喫煙やアスベストなどと同じグループ1(人に対して発がん性がある)に、赤肉をグループ2a(人に対しておそらく発がん性がある)に分類している。

「製造工程で使われる亜硝酸ナトリウムなどの食品添加物に発がん性があることが分かっている加工肉に関しては、やはり食べ過ぎは良くないでしょう。ハムやソーセージなどを毎日食べているようなら、2~3日のうち1食に減らした方がいいと思います。毎日、牛肉や豚肉を食べている人は2日に1度は鶏肉や魚に替えるといった工夫をしてみて下さい」(佐藤氏)

魚を食べることで肺がんのリスクが低下

 魚に関しては、「がんのリスクを下げる」ことを多くの研究結果が示している。

「20の研究をまとめた解析では、魚を多く食べることにより、肺がんのリスクが21%低下することが示されました。大腸がん(結腸がん、直腸がん)に関しても同様の研究結果があり、魚の摂取は大腸がんのリスクを12%下げる、と報告されています。この関係は特に直腸がんで強く、魚を取ることで直腸がんのリスクが20%以上低下することが示されています」(同)

 すい臓がんに関しても同様の研究結果がある。

「45歳から74歳までの8万2千人以上の日本人に、詳しい食事内容のアンケート調査を行ったところ、観察期間中に449人がすい臓がんと診断されました。観察開始から3年以内にすい臓がんと診断された対象者を除外した結果、魚介類から摂取したオメガ3脂肪酸(EPA、DPA、DHA)が最大のグループは、最小のグループに比べ、すい臓がんの発症リスクが30%低下していました」(同)

 EPAやDHAはタイやヒラメなどの白身魚より、サバ、イワシ、アジ、サンマなどの青魚に豊富に含まれることが分かっている。肉より魚、特に青魚を積極的に食べることによって、がんを遠ざける。これならストレスなく明日からの食生活に取り入れられるのではないか。

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