「食道がんリスクが50倍」はどんな人? 何年禁煙すれば非喫煙者と同じになる? がん予防研究の最前線

ドクター新潮 ライフ

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食道がんのリスクが50倍になる人とは?

 中川氏が言う。

「お酒もがんのリスクを高めます。“酒は百薬の長”というのはもはや死語ですね。近年は、一滴も飲まないのが一番健康的ということになっていて、お酒が好きな私は非常に肩身が狭いです」

 中でも飲酒で顔が赤くなる人の深酒が一番良くないという。

「顔が赤くなるのに毎日3合飲む人は、食道がんになるリスクが50倍にも増えます。それに加えてたばこも吸おうものなら、100倍近くになるのは間違いない。そういう人は食道の検査をマメにやったほうがいいです」(同)

 お酒に含まれるエタノールは肝臓で発がん性のある「アセトアルデヒド」に分解される。

「アセトアルデヒドは体内で『2型アセトアルデヒド脱水素酵素』(ALDH2)が酢酸に分解し、解毒されています。このALDH2の遺伝子には、分解力の強い型(正常型)と、乏しい型(欠損型)があり、両親からどちらかを受け継ぎます」(同)

 両親から共に欠損型を受け継いだ「完全欠損型」は日本人の約5%に見られる。いわゆる「下戸」、お酒を全く飲めない人たちなのでがんリスクを気にする必要はない。一方、共に正常型を受け継いだ場合も、アセトアルデヒドが蓄積しにくいので、がんになるリスクは低い。しかし、アルコール依存症が多い傾向にある。

「問題は、両親から受けた遺伝子のうち、どちらか一方が欠損型である『部分欠損型』で、日本人の45%を占めます」

 と、中川氏。

「このタイプの人はアセトアルデヒドを分解する力が十分ではないので、大量に飲むとアセトアルデヒドが体内にたまります。これが血管を拡張させて顔を赤くすると同時にがんのリスクを高めるのです」

男性の大腸がんの4分の1が…

 お酒の「害」はデータでも裏付けられている。

「日本人約7万3千人を対象とした研究によると、男性は“時々飲酒している”人に比べ、1日平均で日本酒にして2~3合程度(純アルコール換算43~64グラム)飲む習慣のある人は、がん全体の発生率がおよそ1.4倍、1日平均で日本酒3合分以上飲む習慣のある人は、1.6倍も上昇していました」(佐藤氏)

 お酒とがんの関係というと、食道がんや肝臓がんを思い浮かべる方が多いだろうが、

「男性の大腸がんの4分の1が、1日あたり23グラム以上のアルコール摂取が原因と推定されています。つまり、飲酒を控えることでその分だけ予防可能だと考えられます」(同)

 とはいえ、酒好きの人がいきなり禁酒するのはいかにも辛い。佐藤氏は、

「飲んでも“ほどほど”にすべきでしょう」

 と、アドバイスする。

「具体的な量の目安はアルコール換算で1日あたり20グラム程度。ビールはロング缶1本、ウイスキーはダブル1杯、ワインはグラス2杯、チューハイは1缶ということになります」

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