最速158キロ 「山下舜平大」も生みだした、オリックス“高卒育成プログラム”
「年上のピッチャーがいると力が入っちゃう」
この“新人育成法”を福良GMに問うと、狙いは明確で、実にシンプルだった。
「他の年上のピッチャーがいると力が入っちゃう。それは怪我につながるからね」
焦るな、慌てるな、と言っても、そこは投手の本能。主力級の先輩たちの球を見てしまうと、18歳のルーキーだって、つい負けじと力んでしまう。
しかし、最初に怪我をしてつまずくと、それが尾を引くケースは多い。出遅れは、さらなる焦りにも繋がってしまう。
それを避けるため、慎重に慎重を重ねて、育成プログラムをスタートさせるのだ。しかもオリックスには、リーグ連覇と昨季の日本一で証明されたように、質量ともに豊富な投手陣がそろっている。
「だから、焦らさなくてもいいんですよ。今、投手はいますから、そのいる間にじっくりと次を育てていける、その“時間”があるんです」
そう説明してくれたのは、現役時代は捕手だった上村和裕スカウトだった。3年後、5年後を見据えた上で、次代のエースを育てていく。その余裕こそが、素材重視のスカウティングを可能にした上で、腰を据えた育成へと繋がっているのだ。
「間違いなく次のエースになりますね」
その成果は、次第に現れ始めている。
2020年のドラフト1位右腕・山下舜平大(福岡・福岡大大濠高)は、今季が3年目のシーズンになる。昨オフ、両足首の手術を経ているが、今キャンプではブルペンを訪れた評論家、他球団のスコアラーたちに、それこそ目を見開かせるような投球を見せている。
「高卒3年目だから、大学3年生っていうことですよね? もう十分ですよ。間違いなく彼、使いますよね、今シーズン。いい球を投げてますよ。カーブもいいし、西武の高橋光成みたいなタイプです。間違いなく次のエースになりますね」
ブルペンでの投球をこう絶賛した楽天・小池均スコアラーグループマネジャーは、20歳の若き新戦力への警戒感を、早くも高めていた。
その山下がベールを脱いだのは、3月4日のオープン戦・阪神戦(甲子園)だった。7回からマウンドに上がった山下は、自己最速の158キロをマークするなど、1イニングをわずか7球で三者凡退に仕留めた。
しかもその7球中、ストレートが6球で、そのスピードも158キロが2球、157キロが3球、156キロが1球と、それこそ剛球を連発したのだ。
「ヤバいです。バケモンでした。今まで捕った中で一番速い。この先、怖いっす」
仰天の称賛は、マスクをかぶっていた捕手・森友哉だった。西武からFAで移籍してきた森は、昨季まで高橋光成や今井達也、平良海馬と、大阪桐蔭高時代には、現オークランド・アスレチックスの藤浪晋太郎ともバッテリーを組んできた。日本のトップクラスともいえる顔ぶれの剛球をその手で捕ってきた男ですら、その衝撃度は半端ではなかったのだ。
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