WBCの“世紀の誤審”だけではなかった…「世界の王貞治」渾身の猛抗議

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「明らかにタッチしている」と激しく食い下がるも

 実は、前出の中日戦の半月前、4月29日のロッテ戦でも、王監督は納得のいかない判定に対し、怒りをあらわにしている。

 3対1とリードしたロッテは7回、堀幸一の左越え二塁打で1点を加えたあと、なおも1死二、三塁で福浦和也が中飛を打ち上げた。

 三塁走者・今江敏晃はタッチアップして本塁を狙ったが、大村直之から返球を受けた捕手・城島健司が今江にタッチし、クロスプレーになった。

 だが、東利夫球審の判定は「セーフ!」。城島は「(今江の)顔にタッチした」とアピールし、王監督も「明らかにタッチしている」と激しく食い下がったが、判定は覆らなかった。

 翌日の新聞でも「誤審」と報じられた疑惑の判定の不利を受けたソフトバンクは、最終回のズレータの3ランも届かず、5対6で敗れた。

「(球審が)見えてないって言うんだから、仕方がない」と渋々引き下がった王監督だったが、「もうちょっと意識を高めてもらわないと。最高のジャッジをするために、24時間そういう意識を持ってほしい。グラウンドに出てきた時間だけでいいという気持ちだとは思ってないけど、そういうことも言いたくなる」と苦言を呈していた。

「野球がスタートした国で、こんなことがあってはならない」

 最後は、あわや“野球人生初退場”の猛抗議を行った2008年7月8日の西武戦を紹介する。

 7回に1点を追加し、4対2としたソフトバンクは、なおも中西健太の左越え二塁打で、一塁走者・明石健志が本塁を狙ったが、タッチアウトになった。

 捕手・細川亨が左足で進路を塞ぐようにしていたため、明石は回り込んでベースタッチを試みたが、手が届かず、結果的にブロックがアダとなった。

 直後、王監督が左手で津川力球審を指差しながらベンチを飛び出し、「選手は何とか点を取られるのを防ごうとするが、審判が走塁妨害を取らないんだから」と時には両手を広げて激しく抗議した。秋山幸二コーチも「(細川が)余裕のタイミングであそこ(進路)に立っていること自体おかしい」と走塁妨害をアピールした。

 だが、津川球審は「私の判断としては、一連のプレーの流れ」として却下。5分間にわたって抗議を続けた王監督は、これ以上長引けば“人生初退場”になるところだったが、ギリギリで理性を保ち、寸前回避した。

 5対2の勝利後も、王監督は「あの映像を米国、韓国、台湾で流してほしい。日本の審判が取らないから、選手もやるんだ。きれい、汚いという言い方はあれだが、見たくないプレーでした」と怒りが収まらなかった。

 それから8年後の2016年からコリジョンルールが導入され、捕手が進路を塞ぐ行為は禁止された。

 王監督の抗議は言葉こそ激烈だが、いずれも野球に対する真摯な思いが伝わってくるし、WBC米国戦での「野球がスタートした国で、こんなことがあってはならない」など、名言も多い。

 WBCで“世紀の誤審”の当事者となった西岡も「王監督がすぐに抗議に行ってくれたのが、すごくうれしかった」と回想しており、チームの結束を強める効果もあった。

 侍ジャパンの栗山英樹監督も日本ハム監督時代に「審判やめろ!」の暴言で退場になったことで知られるが、今大会でもチームの士気を高めるような抗議シーンが見られるか、注目したい。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮編集部

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