【放送法問題】先進国で政府がテレビを監視しているのは日本だけ…本来論じられるべき3つの問題
NHKトップ交代でも政府との関係は続く
前田氏も安倍氏と葛西氏の眼鏡にかなったから会長に就任したとされている。強大な力を持つ2人が後ろ盾になっていたから、大胆な人事改革、賃金カット、NHKの歴史と伝統を否定するような組織改革が断行できた。
ところが、昨年5月に葛西氏が他界。安倍氏も同7月に逝去した。2020年1月の前田氏の会長就任時とは状況が全く変わってしまった。後任の稲葉氏は安倍氏、葛西氏とはほとんど関係がない。それもあって、前田改革の見直しに躊躇しないのだろう。
前田氏は現職会長だった昨年2月の定例会見で「(改革の)成果は時間が経たないと見えてこない」と語っていた。だが、その成果が出ず、職員から怨嗟の声ばかりが聞こえてくる段階改革は修正されることになる。後ろ盾だった安倍氏、葛西氏が存命だったら、こんなことはなかったはずだ。
前田氏はさぞ悔しいだろうが、2人がいたからこそ会長になれたのだから、仕方がない。視聴者や職員たちの信任を受けての就任ではなかった。
ただし、これで政治とNHKの関係が切れたわけではない。稲葉氏は岸田文雄首相(65)と近い。岸田氏が会長を務める派閥「宏池会」の先輩・故宮沢喜一元首相が、敏腕日銀マンだった当時の稲葉氏を高く買っていたことが発端だ。
また、稲葉氏は宮沢氏の甥の宮沢洋一・自民党税制調査会長(72)と東京教育大(現筑波大)付属中高の同級生で、気脈が通じている。これも岸田氏を安心させる材料になっているようだ。
NHK会長の任命権者が「清和会」(旧安倍派)から「宏池会」に移っただけとも言える。これではNHKが視聴者のものであるはずがない。放送法「日本放送協会」の下りは改定されるべきだ。海外の公共放送にならえば、そう難しいことではないはず。問題は政府がそれを許すかどうかのみだ。
政権とも戦うBBCへの高い支持は世論調査でも裏付けられている。「オレたちの公共放送」である。一方のNHKは今のままでは受信料をどれだけ下げても視聴者の不満は収まらないだろう。政権と近い分、視聴者との距離があり過ぎる。
[4/5ページ]