藤井聡太の名人挑戦が決定 6歳の時のことを聞かれ「ずいぶん大きく出たものだなあ」
記録保持者の谷川名人の気持ちも変化
最年少記録を40年間も保持し続けている谷川十七世名人は、主催社の毎日新聞の取材に〈「藤井王将がA級入りした時は複雑な気持ちでしたが、これだけの成長ぶりを見れば『記録を破られても光栄なこと』と気持ちが変わってきました」〉と答えている(3月9日朝刊)。
筆者が2年前に谷川十七世名人をロングインタビューした際には「もう僕の記録で残っているのはそれ(最年少名人)くらいですから、抜かれたら少し寂しい気持ちになるかもしれませんね」と正直に吐露していた。
仮に藤井に抜かれたからといって価値が下がるわけではない。将棋に限らずスポーツにしても、次々と天才的な若手が出てくる中で40年も抜かれない記録などそうはない。
ちなみに、谷川十七世名人の最年少記録に次ぐのが羽生善治九段(52)の23歳8カ月である。レジェンド・羽生もA級昇級は意外に遅く、22歳4カ月だった。
最年少名人と並んで今後の藤井に期待されるのは、この羽生が持つ「七冠独占」の更新である。2017年度から「叡王」が新タイトルとして加わり、現在は全部で八冠だ。
もし藤井が、王将戦七番勝負で挑戦者の羽生を退け(3月9日現在、藤井の3勝2敗)、逆に挑戦者である棋王戦五番勝負で渡辺に勝利すれば(同、藤井の2勝1敗)、六冠となる。さらに、渡辺から名人を奪取すれば七冠。5月からの王座戦の挑戦者決定トーナメントを勝ち上がって、王位、棋聖、叡王を防衛しながら8月からの五番勝負で永瀬拓矢王座(30 )を撃沈すれば、前人未到(もちろん史上最年少)の「八冠達成」となる。
しかしこの日、七冠や八冠のことを問われた藤井は「意識はしていませんけど、いま戦っている王将戦や棋王戦から反省点を見つけて名人戦にも生かしたい」などと相変わらず謙虚だった。
「ずいぶん大きく出たものだなあ」
名人戦挑戦について問われた藤井は「そのことは意識する感じではないですが、持ち時間が9時間と一番長い対局。その中でしっかりいいパフォーマンスを出せるように頑張りたい」と答えた。
将棋界で最も歴史のある名人だけは、どんな天才であってもプロになってすぐには挑戦ができないシステムになっている。前段として、順位戦でC級2組からA級(10人)まで5つのクラスを昇級しなくてはならないが、昇級は年度ごと。このためどんなに早くても、プロ入りから名人挑戦までに5年はかかる。
藤井はC級1組からB級2組に上がる時に惜しくもダブってしまった。それがなければ、加藤一二三九段(83)の名人挑戦最年少記録(20歳3カ月)を抜いていたかもしれない。
未明の記者会見で、3日前の棋王戦第3局で渡辺二冠を相手に「詰み」を見逃す終盤の「ポカ」で敗れていたことを問われると「詰みを見逃した時はショックでしたが、その時だけで……」と笑顔だった。敗戦を引きずらずに切り替えられる精神力も強さだ。
6歳の時に「将来は将棋の名人になる」と言ったことを記者に持ち出されると、笑いながら「覚えていないんですけど、5歳から将棋を始めたので6歳でそんなことを言ったのかな。ずいぶん大きく出たものだなあと」と話した。
筆者が「早くタイトルに挑戦できるトーナメント形式の他の棋戦と、年ごとに級を上げてさらに1年間のリーグを戦う名人戦順位戦と、どっちが自分に向いていてお好きですか?」と尋ねると、藤井は「どっちが好きということはないのですが、名人戦(順位戦)の場合、長期間を通してリードを守っていかなくてはならないので。うーん、そこが面白いとこかなとも思っています」などと答えてくれた。