藤井聡太の名人挑戦が決定 6歳の時のことを聞かれ「ずいぶん大きく出たものだなあ」
渡辺明二冠(38)への挑戦権をかけた将棋の名人戦・A級順位戦(毎日新聞社、朝日新聞社主催)のプレーオフが、3月8日、東京・千駄ヶ谷の将棋会館で行われた。最年少名人を狙う藤井聡太五冠(20)が広瀬章人八段(36)と対戦し、藤井が125手で熱戦を制した。【粟野仁雄/ジャーナリスト】
【写真】スーツのジャケットを脱ぎ、白いワイシャツ姿で感想戦に挑む藤井五冠
「最初で最後のチャンス」をものにする
4月から始まる名人戦七番勝負で藤井が渡辺を下せば、谷川浩司十七世名人(60)が持つ21歳2カ月の最年少名人記録を40年ぶりに更新することになる。藤井にとって今期は最年少名人を目指せる「最初で最後のチャンス」だった。
激戦直後の9日未明の会見で藤井は「名人というのは江戸時代から続く歴史のある称号。名人戦に出るということは重みを感じるところではある。自分にとっても大きな舞台に立てると思っているので、それにふさわしい将棋を指したいという気持ちが強いです」と抱負を語った。
10人が総当たりで挑んだA級順位戦で、藤井と広瀬の2人が7勝2敗で首位に並んでいた。挑戦者の決定がプレーオフにまで持ち込まれたのは、6人が首位で並んだ2018年以来5期ぶりだった。
昨年の竜王戦で藤井に挑戦して跳ね返された広瀬は、A級9期目にして初の名人挑戦がかかっていたが、惜しくも果たせなかった。両者の公式戦対戦成績は、藤井の11勝3敗となった。
午後11時45分頃に投了
今期の藤井は先手番で9割以上の圧倒的な勝率を残している(後手番は6割台)。そのため先手番か否かに注目が集まったが、対局開始時の振り駒で藤井が先手番になった。
藤井が「2六歩」と1手目を指し、広瀬も「8四歩」と応じる。その後、最近よく見られる「角換わり腰掛け銀」となり、早い指し手で進んだ。
中盤の67手目で藤井が「3四歩打」で広瀬の玉に迫った。広瀬はこれに対して90分の大長考の末、「2七」に歩を打って藤井の飛車の効きを止めた。ここは藤井が「4四」に角を打つと怖い状況だった。
中継していたABEMAのAI評価値は「3二玉」を推奨していたが、広瀬はこれを選ばなかった。これでも評価値はほぼ互角の数字だった。
解説していた井出隼平五段(31)は「少し間違えるとあっという間に終わってしまう局面。私なら4時には終わってしまうかな」などと冗談めかして話していたが、「『2七歩』は私にはまったく考えつかない手ですよ」と驚いていた。
その後、大きな差がつかないまま、双方の飛車が自陣の最下段を守りながら、敵の玉を狙う。藤井が積極的に2筋、3筋から広瀬の玉に迫る。これに対して広瀬が76手目に金を「3四」に打って玉の上方を守り、局面がやや落ち着いた。
交代で解説していた八代弥七段(29)は「広瀬さんの(「5二」の)角がよく効いている」と話していた。
双方、玉を守る駒が薄い状況だった。藤井は2筋と3筋から金と桂馬で果敢に攻め立てる。広瀬は「2五」に据えた角で藤井陣への突入を図ろうとするが、守りにも使わされてなかなか実行できない。
何とか藤井陣に成り込んで「馬」を作ったが、自玉は1筋に追い詰められる。広瀬は8筋から反撃に転じたが届かず、その後の藤井の攻めで玉が1筋からは逃げたが、午後11時45分頃、藤井の銀打ちによる王手を見て投了した。
[1/2ページ]