弁護士が「モラハラ夫」たちと戦って分かった“食洗機”“友人ナシ”“理系”という共通点
モラハラ妻との違い
ここまで読んだ読者の中には「モラハラするのはなにも夫だけではない。妻だって」と考える方もいるかもしれない。実際、堀井弁護士の元にはモラハラ妻に関する相談も寄せられる。
「本書のテーマがモラハラ夫なだけで、モラハラ妻もとんでもないですよ。わたしが担当した案件では、妻から『風呂』『食器』『ごみ』『床』とLINEが送られてくる夫がいました。風呂を洗え、食器を洗え、ごみを出せ、床を掃除しろ、とひたすら命令しているのです。他には、夫への罰と称して1日300円しかこづかいを与えない妻もいました。モラハラ妻も、内弁慶で人づきあいが乏しいというモラハラ夫と似た部分はありますね。こちらは専業主婦に多いです。ただ、愛情ゆえの夫への依存といいますか、支配欲がないという点ではモラハラ夫とは少しちがう。夫の『離婚したい』という態度が明らかになるとショックをうけるのか、いざわたしが登場すると、あっさりと離婚に応じるのもモラハラ夫と違いますね」
同時に堀井弁護士のもとには「モラハラ夫」もやってくる。
「『妻から離婚されそう』という相談で、よくよく話を聞くと、あなたのハラスメントにも原因があるのでは、となるパターンです。そういう時わたしは『自分のやっていることは正しいと本当に思うのですか?』『こんなひどいメールを普通は送りませんよ』と法律以前の問題点をはっきり伝えます。場合によっては病院でカウンセリングを勧めることもありますが、そこまで言われる筋合いはないと怒って帰る相談者もいた。そういう方は、自分の言動を否定しないでくれる、自分と同じモラル感の弁護士に頼るわけです。『モラルの問題』は法律とはまた次元が違う話で、弁護士本人の男女観、家庭観がかかわってくる部分は小さくないといえますね」
「セクハラ」という言葉が浸透していくとともに、社会全体の意識は少しずつ変わっていた。今後「モラハラ」はどう扱われていくのだろう。
「昔は『亭主関白』で片づけられていて見えなかった問題点が、『モラハラ夫』という言葉が生まれたことで可視化されているのだと思います。奥さんをモノのように扱ってはいけない、ということが浸透しつつある、社会が良くなっていく途中が今だといえます。ひょっとすると揺り戻しのような形で、未来には一度『女性によるモラハラ』が社会問題化することだってありうるわけです。と同時に『モラハラ』という言葉がひとり歩きしてしまい、ただの夫婦喧嘩にモラハラの問題が持ち込まれることで、本当に救済が必要な事例が埋もれてしまう危険もある。何が『モラハラ』にあたるのか、わたしの著書が考えるきっかけになったら幸いです」
なお、著書および本稿で触れた内容は、当事者のプライバシーに配慮し、変更・脚色を加えている。
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