弁護士が「モラハラ夫」たちと戦って分かった“食洗機”“友人ナシ”“理系”という共通点
テレビ裏のコンセントにホコリが溜まっているのを発見した夫が激怒し、そこから3時間の説教が始まる。謝る妻に「発火の危険を知らないなんて義務教育で何を学んだのか」「これだから女は」と暴言を吐く……。2,000件超の離婚・恋愛トラブルを扱ってきた堀井亜生弁護士がこのたび上梓した「モラハラ夫と食洗機」(小学館)で紹介されるのは、こうした夫からのモラルハラスメントの数々だ。堀井弁護士は、モラハラ夫には共通する特徴が見えてきたと語る。
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「質素こそ正義」で美容院通いや化粧品購入を妻に禁じる夫、SDGsの名の下に夏でもエアコンを家族に使わせない夫……堀井弁護士の著作では、実際に取り扱った事例をベースにした15種類の「モラハラ夫」との離婚事例が紹介されている。書ききれなかったエピソードは他にもあるそうで、
「息子の中学受験に熱心すぎるモラハラパパ、というのがありました。匿名で「理系パパの御三家への道(仮称)」といったタイトルのブログをやっているタイプですね。孟子や孔子の教えが大好きなのに、自分の説教で学校や塾に遅刻させるような本末転倒も。ご自身は一流大学卒で子供にも同じ道を歩ませたいらしいのですが、自分は地方出身で中学受験をした経験がない。だから大学受験のノリで『※四合五落』のような無茶を小学生に強いて、出来が悪いと手が出ることも」(堀井弁護士)
(※)4時間の睡眠なら合格するが5時間だと落ちるという受験界の格言
この事例は、妻からの「息子が大きくなってきて、夫の暴力に息子が仕返しをしないか心配」という相談が堀井弁護士に寄せられたケースだった。著書ではページ数の関係で不採用に。
今回の執筆の最大の目的は「モラハラでも離婚はできる」と世に広めることにあるという。
「わたしが初めてモラハラの案件を担当したのは12年前。夫と離婚したいけれど、行政の窓口や他の法律事務所でも無理だと断られ、10軒目に私の元に来た女性でした。聞けば、夫から3年間にわたって『毎日死ねばいいと思っている』等の誹謗中傷がメールを送られてきていた。暴力を振るうといった行為ではないので、離婚の論点にはなりにくい。これまで担当してきた離婚案件も、夫の借金や浮気、性格の不一致といった理由だったので、話をきいて『新しいな』と感じたのを覚えています」
そこでA4用紙で数百枚にわたる夫のメールを印刷し裁判所に提出。「妻にも問題がある」と夫は抵抗するも、最終的には夫婦関係の破綻が認められて離婚ができたそうだ。
現在でこそ広まりつつある「モラハラ」という言葉だが、近年、急に現れた概念のような印象もある。
「著書では『相手を追い詰めるほどの精神的暴力』をモラハラとしていますが、そうした振る舞いを妻や子どもたちにする夫というのは、昔からいたと思うんです。ただ、スマートフォンの普及によって、メールや録音などの形で残せるようになり見えやすくなった。裁判官としても、形として残っているとなると見逃せませんからね。とはいえ、モラハラを理由に離婚できるなど、戦い方はまだまだ知られていません」
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