NHKの「職員1人あたり人件費1000万円」「現金預金・有価証券約5000億円」をどう見るか 早稲田大学教授が危惧する巨大組織の未来

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人件費は1000万円、現金預金約5000億円

 NHKが受信料を徴収する根拠としている「公共性」を問い直す時期が来ているのでは、という問題提起をしている有馬哲夫・早稲田大学社会科学総合学術院教授。前編(「すでに中国に負けている」NHK国際放送は国益になっているのか 早稲田大学教授が指摘する「公共性」の限界)では、災害放送や国際放送のあり方への疑問を語ってもらったが、今回は「お金」の問題について解説をしてもらおう。【前後編の後編】

――前編では、災害放送も国際放送もネットにシフトしたほうがコスト面、影響力、利便性を考えて合理的だという指摘をなさっていました。さらに給与や財務状況についても広く国民に知られるべきだ、という話でしたね。

有馬:そうです。いろいろな問題点を指摘しましたが、受信料が極めて安価で、ほとんどの人が納得しているのなら、問題にはされないでしょう。

 しかし、現実には負担に感じたり、不合理に思ったりしている人が少なくない。

 ここで受信料の使われ方について見てみましょう。「週刊東洋経済」2019年11月23日号は、「検証! NHKの正体」という特集記事を掲載しました。ここでの指摘は以下のようなものです。

・職員数は1万人超。1人あたりの人件費は1098万円(平均年齢41.2歳)。これを年収と考えた場合には民放キー局の平均年収は下回るが、民間の正規雇用の一般給与所得者の平均(503万円)を大きく上回るものである。

・労働環境には課題が多く、特に報道現場や制作現場での過重労働は問題になっている。

・受信料収入は年々伸びており年間7000億円を突破。ただし今後は一部負担軽減策の実施により、収入は減少する見込み。過去の利益の剰余金は2909億円にものぼる。

・2013年度と2018年度の番組制作費を比較した場合、ドラマやスポーツなどの制作費が増加傾向にある。2018年度はドラマには355億円、スポーツには692億円が費やされた。

 コロナ禍を経てどうなったかを見てみましょう。幸いなことに、NHKの決算は公になっているので、ネットで見ることができます。2021年度の決算概要は以下の通りです。

 まず収入は7009億円(うち受信料6801億円)で事業支出は6609億円で、事業収支差金は400億円でした。資産合計(1兆2720億円)から負債合計(4141億円)を引いた純資産合計は8579億円にものぼります。

 もちろんその中には不動産など固定資産も含まれるのですが、「現金預金・有価証券」だけで4993億円にものぼります。

 職員給与の総額が1114億円ですから、1万人強の職員数で割ると1077万円となります。これは先ほどの週刊東洋経済の示した数字とほぼ同じですね。

民放と比べるとどうか

――テレビ局の職員は民放も含めて総じて高給なのでは。いいか悪いかは別として。

有馬:公共性を考える場合にまず、民放とどこが違うのかを考えてみてはどうでしょうか。

 番組制作費は1年間で3070億円。内訳を見ると、ニュース(解説含む)は945億円。ドラマに361億円、エンターテインメント・音楽に234億円、趣味・実用に21億円、ライフ・教養に783億円。

 ドラマやエンターテインメントは民放との間に本質的に差のないものですが、そこに600億円近くが費やされているわけです。

 NHKの大河ドラマや朝の連続テレビ小説、あるいはニュース番組に好感を抱き、受信料を支払うことに抵抗が無い方は、これらを見てもなお、支払った金額に見合うサービスが提供されていると感じられるのか。意見は人それぞれでしょうが、少なくとも数字を知ったうえでの議論が必要かと思います。

――ドラマやドキュメンタリーは民放よりもいい、という声もあると思います。

有馬:そうでしょうね。でも、以前のインタビューでもお話ししたように、国際競争力はほぼ無いと私は思っています。

 また、民放にも優秀なドラマはあるのではないですか。

 報道番組でも優れたものがないわけではないでしょうが、ニュースのほとんどは政府や企業の発表によるもので、自分たちで問題を抽出し、解決策を示すような試みはほぼ見られません。

 たとえば、2022年に緊迫化した電力不足の問題は、それ以前から分かり切っていたことです。しかし、その解決を促すような報道、問題提起は行われていません。

 常に町の人の反応や、企業の対応をそのまま伝えるだけで、どこに公共性があるのか、わからない報道ばかりでした。

――お話を伺っていると、現状のNHKに問題があるという視点はよくわかりました。が、一方で公共放送がなくなってしまって、すべてが民放になることには一抹の不安もあります。それって頭が古いんでしょうか。

有馬:すでに放送と通信の融合は進んでおり、この流れは変わりません。まずそれを前提に、どういうメディアが存在していることが国益につながるのかを考える必要があります。国益というと、妙に警戒するタイプの人がいることは想像に難くありませんが、決して大本営発表をするメディアが必要だと言っているわけではないのです。

 むしろ、政府の圧力からは自由な形の放送局が必要になります。それこそが当初、アメリカ側が日本に作らせようとしていたものでした。そのメディアをどう創設するかの構想は、『NHK受信料の研究』でも述べました。

 詳細はここでは省きますが、言えるのは民放も含めた全チャンネルが一緒になって日本版Netflixのようなものを作り、優れたコンテンツを投入していかない限り、どんどん先細りになっていくということです。

 そして普通の民間企業ならば率先してこの状況に危機感を抱いて手を打つでしょうが、なにせNHKの場合、受信料がほぼ自動的に入ることになっている。時代の流れと関係なく、収入が保証されている。だから大きく変わらなくても、組織が維持できてしまう。

 それが本当に私たちのためなのかを考えるべきだと思います。

有馬哲夫(ありまてつお)
1953(昭和28)年生まれ。早稲田大学社会科学総合学術院教授(公文書研究)。早稲田大学第一文学部卒業。東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得。2016年オックスフォード大学客員教授。著書に『原発・正力・CIA』『日本人はなぜ自虐的になったのか』など。

デイリー新潮編集部

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