柔道・大野将平 パリ五輪不出場も「引退ではない」 指導者目指し「今後はもう少し優しい顔も見せたい」

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今後は優しい顔も……

 一方、重量級出身者ばかりだった全日本男子の代表監督への意欲を訊かれると、「求められれば、ぜひとは思っている。日本柔道を強くするために貢献していくというのは間違いなく言えるので、協力していきたい」と答え、遠慮せずに「指導者の頂点」も目指す気概を見せた。

 畳の上で睨まれた外国人選手はビビッてしまったのではと感じる凄みのある「目つき」も特徴的だった。

「相手を委縮させようと意図して怖い顔をしていた部分はあったか」と筆者が問うと、大野は「松本薫さん(35=ロンドン五輪女子57キロ級金メダル)みたいなことはしません」と、ちょっと取り澄ました顔になった。それでも最後の挨拶では「先ほど怖い顔だと言われたので今後はもう少し優しい顔も見せたい」と微笑んだ。

 パリ五輪を目指さないのは寂しいが「同じ階級にやりたい選手がいなくなった。心が燃えるような大会が出てこなかった」とも明かした。2連覇といっても、東京五輪が1年延長されて5年を挟んだ2連覇は、普通の2連覇以上に困難で価値のあるものともいえる。

 大野はある意味、「完全主義者」でもあった。コンディションが少しでも不十分だと試合に出場しない。大会直前、極端な時は当日の朝に出場辞退が判明することもあった。

 2014年の世界選手権で格下に不覚を取ったのを最後に外国人選手に負けていない。飛びぬけた強さからも、「オリンピック3連覇を目指すのが当然」とも思われた空気を自ら断ち切ったのも大野らしい。オリンピック3連覇よりも「武道としての柔道」に価値を見出したラストサムライの生き様に注目したい。
(一部、敬称略)

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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