昭和最大の不倫スキャンダル「西山事件」は52年前、新宿の「連れ込み旅館」から始まった 外務省女性事務官の「手記」に綴られていた“悔恨と憤怒”

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生理だってかまわないよ

 強引も強引。ほとんど力づくで『スカーレット』からさほど遠くない旅館に私を引っ張っていった。なぜ、あの時、私も強引に帰らなかったのか。いま、いくら悔やんでみても始まらないが、西山記者のささやきとお酒との両方に攻めたてられた私の気持はとても複雑だった。明らかに足が地面についていなかったのである。

 ともかく、旅館には私も入ってしまった。もう、頭はまるで混乱していた。夫の顔が目の前をチカチカする。何だか体から力がすっかり失われていくような感じがした。陶然としているわけでもなければ、気がめいっているわけでもない。自分であって自分ではないような、奇妙な状態のまま、私は旅館の部屋の中にいたが、突如、その日、私自身が生理であったことを思い出した。とたんに私の気持はさらに動揺し、生理に見舞われている私の体に対する心配やら恥ずかしさやら、頭の混乱は極度に達した。

 部屋の中で、もうとっくにその気になっている彼に無我夢中で私はいった。

「私、今日、生理なんです。どうかそれだけはお許し下さい」

 自分でも不思議なくらいバカ丁寧な言葉を使った。ところが、西山記者はどっかりと落ち着いていた。

「生理だってかまわないよ」

 すべては終わった。「愛の余韻」などとても味わっているヒマはない。私は急がなければならない。夫のことが気になって仕方なかったのだ。大急ぎで旅館を出ると、西山記者がタクシーを止めてくれた。彼はタクシーの運転手に、

「この人を送ってやってくれ」

と、五百円札を渡した。ちょっとイヤな感じがすると同時に、「浦和までの車代にはとても間に合わない」とも思った。尊大で一方的な西山記者は、およそ人のことを考えない。

 自宅に着いたのは、午前零時をすでにまわってからであった。まだ起きていた夫は、

「遅いじゃないか。明日もあるんだから早くやすみなさい」

 と、それだけいった。何かニュアンスから、夫はすでにわかっているのではあるまいかという気がして、胸の中に暗いわだかまりが生れた。「申し訳ありません」――。それまでにもお酒を飲んで遅く帰ったこともあるが、あの晩ほどではなかったのだ。その上、私は、西山記者の言葉に酔わされ、流され、とうとう最後の一線を越えてしまった……。

「西山事件」外務省女性事務官「悔恨の手記」に綴られていた悲痛な叫び 「西山記者と毎日新聞は私の最後のトリデである家庭までも破壊した」に続く)

デイリー新潮編集部

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