好調「リバーサルオーケストラ」は“大人たちの青春ドラマ” 「スタンドUPスタート」と明暗を分けた3つの理由
舞台を職場ではなく、楽団にして成功
「リバーサル――」が評判高い作品になった理由はいくつも挙げられる。まず発想が抜群に良かった。集団劇でありながら、舞台を職場にせず、楽団にしたところである。
職場を舞台にすると、どうしても職場特有の陰影や緊張感が生じてしまう。それを排除した明るい職業ドラマもあったが、リアリティが乏しくなってしまい、大人の視聴者はついていくのが辛かった。
玉響を職場に置き換えて考えると、この作品の発想がいかに優れていたかが分かる。職場だったら、庄司は遅刻を繰り返した段階でバツ印が付いていた。大半の同僚が見捨てる。上司や同僚が自宅に住まわせてくれるなんて考えられない。
みどりが娘のことで悩んでいようが、同僚たちが娘の通う高校に行くなんて、あり得ない。そもそも同僚の私生活に立ち入らないのが現代の職場の流儀だ。
だが、この作品は職場を楽団に換えることで、団員同士が助け合う姿から違和感をなくした。後味いい作品に仕上げられた。
1990年代後半から企業が次々と成果主義を採用したこともあり、現実の職場における人間関係はどんどんクールになっている。コロナ禍もあり、アフター5の飲み会は激減。社員旅行を続けている職場は稀だろう。
ただし、クールになることが正しいのかという声も根強くある。この作品は現実の職場へのアンチテーゼの一面もあったのかも知れない。
大人たちが集う理由を音楽にしたのも良かった。親しみやすい。しかも使われている曲(劇伴)は学校の授業で聴いた作品ばかり。
「威風堂々」(エドワード・エルガー)、「運命」(ベートーヴェン)――。繰り返し流れるBGMの「遠き山に日は落ちて」(ドヴォルザーク)も物語に合っている。音楽を担当した清塚信也氏(40)は俳優でもあるので、ドラマのことがよく分かるのだろう。
門脇麦はプライム帯の連ドラは初主演だったものの、伝説の映画監督・故若松孝二さんの半生を描いた主演映画「止められるか、俺たちを」(2018年)などで各種映画賞を獲っている人だから、全く危なげがない。田中圭が演じている常葉朝陽は偏屈で気難しく、それでいて内面は優しいという難しい役柄だが、うまい人だから軽やかに演じている。
[3/5ページ]