単身赴任先で小料理屋の女将とデキてしまった48歳夫の苦悩 不意打ちの「ただいま」で妻子の表情が忘れられない
そして由美さんと
日曜の深夜、やっているはずもないと思いながら、由美さんの店の前までいってみるとうっすら灯りがついていた。戸を開けると由美さんがいた。
「あら、どうしたのと彼女は立ち上がった。『やってないよね』と言ったら、『今日は団体さんが入っていて、さっきまで大騒ぎだったの。疲れたから一休みしていたところ。ビールでいい?』と。飲んでいたら、『残り物だけどよかったらどうぞ』と、かぼちゃの煮物が出てきた。口に入れて初めて、お腹がすいていることに気づきました」
由美さんは、お腹がすいてるんじゃないのと言いながら、「ちょうどよかった。残り物の整理をさせて申し訳ないけど、よかったら食べて」と次々につまみを出してくれた。
「ビールが進んでしまいました。さんざん飲んで食べて、支払いをしようとしたら『無理矢理食べてもらったんだから、お代はいらない』と由美さんが言うんです。そうはいかない、あなたも商売なんだからと言ったら、『残ったものは私の朝ご飯になるだけなのよ』と彼女が笑い出して。なんだか知らないけど僕も急に笑えてきた。僕の足元がふらついているものだから、笑っているうちによろっとした。彼女が支えてくれて……」
いつしか抱き合い、唇が触れあっていた。朦朧としながらも、このままではまずいと思ったが、なるようになれとも思ったと彼は言う。店の奥に三畳程度の小部屋があった。半分物置と化していたが、由美さんはそこへ彼を誘った。
気持ちよさに溺れながら、彼は「もう妻には何も言えないな」と感じていた。
ようやく終わった赴任生活
3年の予定が4年にはなったが、42歳となった和紀さんは本社に戻った。営業所で実績を上げ、部長となった。最年少役員になるのではないかと噂も立っていたようだ。
「11歳の息子は、まだかわいかったけど、14歳になった娘とはかなり距離ができていましたね。そして妻とも。あの件があってから、パソコンで顔を見ながら話していても、どこか隙間風が吹いているような気がして、週に1,2回しか連絡をとらなくなっていました。妻が『近所のお弁当屋さんでパートを始めた』というのは聞いていたけど、それについて何か言えるわけでもなかったから、『体には気をつけて』とだけ言ったのを覚えています」
毎日、自宅に帰るようにはなったが、なぜか落ち着かない。以前、自分はどんな気持ちで過ごしていたのか思い出せなかった。娘は部活だの、友だちと遊びに行くだのと忙しそうだし、息子は地元のサッカーチームに入っていた。サッカーに興味のなかった和紀さんだが、週末は時間があれば息子の練習を見に行った。それだけが楽しみだった。
「単身赴任時の営業所には月に1回くらい出張していました。そのたびに由美さんの店に寄り、時間があれば夜も一緒に過ごしていた。彼女との関係が、僕にとって唯一の癒やしでした」
一方の妻と弟の関係は不明のままだ。
不安定のまま安定してしまった夫婦関係だと和紀さんは感じていた。もちろん、彼が妻と弟とのことに踏み込まないのは、断ち切りがたい妻への愛があるかららしい。
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