人間の無駄と矛盾を突くEテレらしいドラマ「東京の雪男」 SDGs的な切り口が新鮮 

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 1月フジテレビが放送したVFXドラマ「CITY LIVES」がよかった。奇抜ながら、緻密な設定の秀作。今期はSFが多いが、さらにSDGsを盛りこんであるEテレらしいドラマを発見。「東京の雪男」である。

 雪山で暮らしていた297人の「雪人(ゆきびと)」を政府主導で保護、各自治体で就労支援や生活支援を行っているという設定。雪人と人間のミックスであるユキオ(磯村勇斗)は仲間と離れて暮らすことに、初めは不安と恐怖を感じていた。が、受け入れ先のスーパーのオーナー(山下容莉枝)は優しく理解ある人だ。暑さに弱いユキオに、冷凍室内の一角を居室として提供してくれる。オーナーの娘で役所勤めの翠(北香那)は、ユキオの純粋さに次第に引かれていく。

 ユキオと翠のラブストーリーだが、雪人と人間の生活信条の違い、差別や障壁も描く。「多様性と包摂性のある社会を目指す」が、利己的な人間社会では、そう簡単にはいかないという話。

 ユキオが人間の暮らしにおける無駄や矛盾を指摘するたびに、人間側としては耳が痛いし、口ごもる感じ。「ラップ&トレーで食品を過剰包装してゴミを増やす無駄」「売れ残った総菜を廃棄処分しなければいけない矛盾」「生態系をさんざん破壊しておきながら、食料を求めて里におりてきた動物たちを害獣扱いして、殺処分する残虐さ」。磯村のあどけなさとおびえが混じった表情は、人間にうしろめたさを抱かせるのに十分。つうか肩幅広いよね、磯村。

 私が好きなシーンは第1話に。重要だが省かれがちな、あの話。翠はユキオに興味津々でいろいろな質問をするのだが、セックスについてぶっこむシーンがあった。「人間はランチくらいの時間をかける」と話す翠に対して、雪人は「秒ですね」と答えるユキオ。秒かぁ。そして行為の目的は子作りであり、排卵期以外の行為は無駄というユキオ。要は避妊という概念がない。翠はそのやりとりでキレるのだが、こういうことって大切。人間は口にも顔にも出さない悪癖があるからな。

 皮肉なことに、翠は役所の獣害対策課に勤務。町に出没するキョンなど野生動物の捕獲・処分を行っているが、ユキオの持論(保護して山に帰せばいい)に感化され始めている。関係ないけど、獣害対策課の面々がコミカルでシニカル。SDGsを大声で推進する公務員のほうが、理想と現実の乖離にへきえきしているのよ。

 社会には雪人に対する差別もある。ユキオも初めはスーパーの店員(宍戸美和公)に距離を置かれていた。店長(水澤紳吾)の腕の火傷を治してからは手のひら返し。人間は利己的だからね。

 さらに悲惨な現実もある。ユキオの幼なじみであるユキムネ(吉村界人)は、差別を受けて職を失い、小さな娘をひとり抱えて困窮状態に。国は雪人に対して生活保護を認めていない。総理大臣(佐野史郎)は、話題作りのためだけに雪人保護を実施した感もある。担当の役人(中村靖日・水間ロン)も雪人にぞんざいで高圧的だし。

 強欲な人間と天然の雪人。共存できるか、この社会で。クールでクルエルな物語だ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年3月9日号掲載

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