稲葉NHK新会長が職員へ異例のメッセージ 前田・前会長の“銀行員的改革”はなぜ不評だったのか
不祥事続発の遠因も前田改革?
昨年10月、阿部渉アナウンサー(55)の局内不倫が取りざたされた。今年2月にはアナの船岡久嗣容疑者(47)が後輩女性アナの邸宅に侵入した疑いで逮捕された。どちらも前田体制下のNHK内では厳しい立場のベテランだ。
2人の行為はもちろん自己責任だ。庇う余地はない。だが、不祥事の背景に改革の影響はないのか。組織は実績ある2人を大切にしていたのだろうか。
前田体制はベテラン職員に関わる人事制度を激変させただけでなく、新人採用の仕組みも大きく変えた。2022年4月入局組から、職種別採用を止め、一括採用にした。報道記者志望者もドラマ制作を目指す者も技術者志望者も一括りで採用するようになった。
報道記者志願者は朝日や毎日、読売などの新聞社との併願が多かった。ドラマ制作者や技術者になる可能性もあると、受験をためらう者もいるだろう。
ドラマ制作を希望する者も同じ。記者になるのを恐れ、映画会社や動画配信会社などに流れてしまうこともあるに違いない。「人材の宝庫」と言われ続けたNHKだが、クリエイターセンターへの移行や外注増加もあって、今後は危ういのではないか。
もっとも、職員たちの危機感や嘆きは日銀元理事の稲葉延雄会長も知っていた。今年1月25日の就任会見で、前田改革についてこう口にした。
「若干のほころびが生じているかもしれない」(稲葉会長)。新会長が就任するなり、前会長のやったことを否定するような発言をするのは前代未聞だった。
それから1カ月余。職員に向けて「改革の検証と発展へ」とするメッセージを出した。前田改革を見直すつもりに違いない。
NHKは真の公共放送になるしかない
前田体制下でNHKの報道や番組の魅力が落ちたためなのか、受信料を下げたにも関わらず、民営化やスクランブル化を求める声が高まっている。だが、それは視聴者にとってプラスなのだろうか。
まず民営化はマイナスが大きい。そうでなくても在京キー局が5局もあるのは多い。米国ですら4大ネットワークなのだ。民放ばかりになったら、俗な番組が増えるだけ。また、NHKがスポンサーを獲るのは簡単ではない。やったことがないのだから。
スクランブル化するくらいなら、いっそ廃局にしてしまったほうが良い。既に有料CS放送のニュースチャンネルや有料配信動画が数多くあり、そこにNHKが加わるだけで、意味がない。
ただし、受信料で築き上げられたNHKを失うのは勿体ない。現在、なぜ民営化論などが高まっているかというと、それはNHKが視聴者の手の届かないところにあるから。前田改革も視聴者は蚊帳の外だった。
NHKが進むべき道は視聴者のための公共放送になるしかない。「既に公共放送じゃないか」と言うなかれ。現在の形態は英国のBBCなど諸外国の公共放送とは似て非なるものだ。
まず全放送局が総務省の支配下から脱する。突飛な話ではない。先進国では政府がテレビ局を監督するほうが極めて異例なのである。テレビ局は報道機関であり、本来は政府を監視する側の立場なのだ。
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